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クラウン(21)

 ○洛外・辻
毛皮高下駄悪党姿の雑兵頭が、牙旗の仲間を引き連れ歩く。
雑兵頭、市人らの視線を感じる。
雑兵頭に後ろから礫が投げられる。

雑兵頭「誰だ? 我ら物の怪を畏れぬのか!」

市人達、じっと雑兵頭らを見ている。

市人達「汚らわしや。汚らわしや。汚らわしや。汚らわしや」

雑兵頭ら、怯んで早足で去る。
 
○九条大路・空き小屋
軒下に隠れている道化と犬丸。

小屋主の声「出てまいれ穢れ人! 侍所に突き出してやる!」
犬丸「穢れ人?」
小屋主の声「何が物の怪だ! 泥棒が!」
道化「……ようやく人となれたか」

道化、反対側に向かって這う。

小屋主の声「大君の命だ! 畏れを清めに変えてくれるわ!」
 
○小川邸・勝元の間(夜)
机上に広げられた洛中洛外の地図に朱の印(しるし)をつけてゆく勝元。
市人達の幻聴が響く。

市人の声「汚らわしや! 汚らわしや! 汚らわしや! 汚らわしや!」

朱の印が稲荷山へと火の如く集中してゆく。

勝元「捕えたぞ。穢れ多き物の怪ども」
 
○同・庭(夜)
簀子に出る大鎧の勝元。
篝火の元、神妙に控える家来達。

勝元「これより決戦に赴く。都の騒乱、管領勝元が収める。いざ!」

家来達、鬨の声を上げる。
 
○小川・百々橋(夜)
進軍する勝元の兵。
橋の向こうに立つ宗全の兵。
勝元、宗全を睨む。
宗全、勝元を睨む。
 
○稲荷山・道化の砦・中(夜)
三味、琴、弓の音が妖しく重なる。
掲げられている牙旗。
煌々と蝋燭が照らされ、紫煙が漂う。
遊女傀儡が芸を舞い兵どもが酔う。
屏風の影で、遊女を抱く雑兵頭。
簀子に出て月を見ている道化。
道化を見つめる犬丸。
と、赤ら顔の物見の兵が駆け込む。

物見の兵「道化ぇ! 侍が、奴らが一斉に!」
道化「西方か。東方か」
物見の兵「どっちも……どっちもだ!」
   
 
○同・道化の砦・表(夜)
荒れ寺を取り囲む東方と西方の兵。
宗全、英林、勝元、斯波畠山兄弟。
勝元、槍を構える牙旗兵の前に出る。

勝元「穢れ人に告げる。大人しく縛につけば大君と釈迦牟尼仏の慈悲により人に戻す。抗うならば未来永劫七道の闇を彷徨う事となろう!」
 
○同・道化の砦・中(夜)
遊女傀儡が着の身着のままで逃げ出す。

雑兵頭「道化。俺達は神仏にも並ぶ物の怪となった。なあ、そうだろう」
道化「いかにも。現世の縁を切られし物の怪です。まさか今更救いなど求めてはおりますまいな」

無表情の道化に怖気立つ雑兵頭。
逃げ出す牙旗の兵達。

犬丸「馬鹿が。人に戻されて、殺されるだけだ」

女の小袖を羽織り逃げ出す雑兵頭。
道化、逃げる兵の一人の襟首を掴む。

道化「言伝を頼みたい」
 
 
○同・道化の砦・表(夜)
逃亡兵、勝元の前に引き立てられる。

逃亡兵「盟主、骨皮道化よりの言伝である。牙旗を焼かれたくなくば東西の首領並びに縁深し英林殿に見参されたし」
英林「俺もだと?」
逃亡兵「ともに雌雄を決し『我らの望み』を果たさん」
勝元「どういう意味だ?」
英林「ケダモノの世迷言にござる。惑わされぬよう」

英林、小さく呟く。

英林「世迷言を……」

(つづく)

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