クラウン(15)
○鵺の隠れ家(夜)
草に覆われている小屋。
薪割り台に座り赤子をあやすトミ。
道化、背を丸めてトミに這いよる。
トミ「何をしておる」
道化「我は物の怪にて」
トミ「銭の集め方は覚えたか?」
トミ、道化に銭の束を放り投げる。
トミ「恐ろしい宴であった。結局お前は血の舞しか踊れぬようじゃ。されば手を貸せ」
道化、背を丸めたまま動かない。
トミ「それとも、お前も未だ、お今に取り憑かれたままなのか」
道化「申し訳ござりませぬ。かような汚らわしき所にひととせも」
トミ「わらわもお前も、この都から消える事、叶わなんだな」
道化「……え?」
トミ、赤子を道化に見せる。
トミ「応仁丸と名付けられた。我が君には、鬼の子供と映っていようの」
青ざめる道化。
○(フラッシュ)鵺の隠れ家・小屋(夜)
道化、眠るトミに這いよってゆく。
○鵺の隠れ家(夜)
道化、愕然となり地面にひれ伏す。
道化「私は……私はケダモノにござりまする!」
震えている道化。
道化「何とひどい事を。なんと……」
トミ「……?」
道化「全てではありませぬ。まことに覚えておかねばならぬ事は消えておるのです。私はなんと……なんと非道い所業を」
トミ「……覚えておらぬ、とは?」
道化「応仁丸と名付けられたのですか」
道化、赤子を見つめる。
トミ「……!」
トミ、何かを思い立ち、冷たい顔で道化を見下ろす。
トミ「……いかにも。応仁丸は次の御代の大君となる」
道化「(土下座して)申し訳ござりませぬ!」
トミ「我が君よりも強き大君となる!」
道化「申し訳ござりませぬ!」
トミ「目を伏せるな!」
道化、顔を上げる。
トミ「わらわを見よ。これよりは、わらわと応仁丸だけを見るのじゃ」
道化「仰せのままに」
トミ「管領勝元を廃する。宗全入道を誅する。東も西もない。応仁丸、ただ一人を王とする。わらわとお前の力で、わらわとお前の応仁丸を」
トミ、道化の耳元で囁く。
道化、トミの囁きを聞く。
トミ「よいな」
道化、忍びの顔になる。
道化「……承知いたしました」
トミ「いかなる犠牲もいとわぬ。この子の為に鬼となろうぞ。それが我らの縁じゃ」
道化「縁」
赤子が目覚め、道化の指を掴む。
道化「縁」
道化、泣いている。
トミ、道化を見つめる。
トミ「抱くのじゃ」
トミ、道化に赤子を渡すと、おくるみを広げ牙旗に変える。
トミ「これは室町大君の旗。これに抗う者は全て賊軍となる。わらわの唯一の武器」
旗の中央が切られ穴が開いている。
トミ「その冠、今までよう守ってくれた」
道化の角帽子を取り、糸を噛みきるトミ。
角帽子が一枚の布と広がり、真ん中に金刺繍の両引紋が設えてある。
牙旗と紋所が月下でひとつとなる。
完全なる御旗となった牙旗を天に掲げるトミ。
赤子、笑う。
トミ「名を聞いておらなんだな。これまで『お前で十分じゃ』と」
道化「お前で十分にござりまする」
トミ「応仁丸が聞いているのです。名は何と申すと」
赤子、道化の腕の中で笑い続ける。
道化「道化。骨皮道化」
トミ「踊りなさい道化。この子の為に。応仁丸の為に」
道化、赤子を抱いて、くるくると舞い続ける。
(つづく)
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