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クラウン(17)

○四条通り
腹巻腹当て入り乱れ、火花散らす。
座は馬に蹂躙される。
小屋には火が放たれる。

○関
高札がへし折られ、踏みつぶされる。
侍たちが刃を交える。
柵が破られ流人がなだれ込む。
 
○鴨川
血で血を洗う武士ども。
敗者は川に投じ清められる。

○洛中・辻(夜)
東方と西方の乱戦。
と、鵺が如き咆哮に一瞬、戦が止まる。
月下、掲げられる牙旗。
道化に率いられた異形の兵達が闇に浮かぶ。

東方兵「牙旗じゃ」
西方兵「牙旗の兵じゃ」
東方兵「今宵はどちらか」
西方兵「西か? 東か?」

道化、西方を指す。

道化「物の怪が力。今宵は東に」

牙旗の兵、雄叫びを上げ西方を襲う。
なりふり構わぬ雑兵どもの戦ぶりに、退散する西方。

雑兵頭「まだ滾りが収まらん」
牙旗の兵「いいだろう? 道化」

道化、牙旗の兵どもを見据える。

道化「略奪なくして何の戦ぞ」

牙旗の兵達、近くの館に火を放つ。

雑兵頭「富を奪え! 都の富を奪え!」

兵達、狂喜して館に乗り込んでゆく。
犬丸、道化ににじり寄る。

犬丸「やりすぎだ。あいつら狂ってる」

道化、虚空を捉えて呟く。

道化「トミを奪え。都のトミを奪え」

と、騎馬の英林が家来を率いて現れる。

英林「道化!」

英林らと東方が合流する。

道化「ご案じめさるな。今宵、牙旗は東方にありまする」
英林「正義なき御旗などいらぬ! ものども、物の怪の兵を征伐せよ!」
犬丸「笑わせるな。俺達を見放したくせに」
英林「人の心は失っておらぬようだな、犬丸。我が名と共に田舎の母に錦を飾ってやれ」
道化「母?」
犬丸「家なんてとうに捨ててら。それに道化はケダモノだが嘘はつかねえ。アンタと違って正直だ!」

館から女を追い、出てくる牙旗の兵。
英林、兵を一刀のもとに斬り捨てる。

英林「正直に生きた結果がこの所業か」

英林、道化に斬りかかる。
道化、英林の刀を受けて鍔迫り合い。

道化「下克上にござりまする」
英林「おのれ如きが。笑わせるな下郎」
道化「宗全殿も貴方をそう思っておいででしょう」

ハッとなる英林。

道化「そして大君様もまた、宗全殿をそう思っておられるでしょう。誰もが常に誰かの下郎にござりまする。ゆえに下克上」
英林「黙れ!」

英林の刃が道化を弾き飛ばす。
倒れる事無く英林を見据える道化。

道化「されど、私は貴方とは違います。正義もいらぬ。名もいらぬ。欲しいものは、ただひとつ」

道化、吠える。
財宝や女を手に集まる牙旗の兵。

道化「英林様。ともに手に入れませぬか。この戦で」
英林「……何をだ?」
道化「望むものの全てを」

牙旗の兵、闇に消える。
英林、闇に向かって叫ぶ。

英林「鵺どもめ! わが正義、侮るでないぞ!」

(つづく)

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