クラウン(18)
○一休街(夜)
舎利が鼓を打っている。
焚火をしている非人達。
焼け出された物売りや桂女らが、遠巻きに眺めている。
枯れた木の下で、尉が高砂を舞っている。
老僧に連れられ義視が現れる。
非人達が訝し気に義視を見る。
老僧「畏れる事はございませぬよ」
舞い終わり、尉の面が外される。
尉の正体は大君。
大君「御坊。よう助け出してくれた」
義視「兄君! なぜここに?」
大君「御所に引き籠っていても知らせは網の目の如く張り巡らせているさ。そしてたまに、変装して騒ぐ。御台には気味悪がられてるがな」
微笑む舎利。
大君「おい。告げ口するなよ」
舎利「さて。耳と口は達者ゆえ」
義視、立ち上がる。
大君「行く所あるのか?」
義視「身を案じられる筋合いなどない」
大君「あるさ。俺はお前の兄だ」
義視「……うぬのせいじゃ」
大君「……すまん」
義視「次の大君にする。俺はもううんざりだ。そう言って身共を世俗に引き戻したのはうぬではないか!」
大君「あの頃は富子がかどわかされ、局が殺され。いや、今もうんざりしてるよ。でも応仁丸は俺の子供なんだ。だから、すまん」
義視、大君を殴りつける。
大君、倒れたまま抗わない。
大君「殴れよ。ここには家来なんかいない」
義視「……義政!」
義視、大君を何度も殴る。
非人達が二人を見つめる。
殴り疲れた義視が虚無の瞳で呟く。
義視「勝手に生きて勝手に死ね。俺もそうする」
歩み寄る老僧。
老僧「参りましょう。有ろじより無ろじへ」
義視、老僧と共にいずこかへ消える。
大君「俺は弟を助けおおせたぞ。後はもう知らん」
○洛中洛外図(イメージ)
燃えてゆく洛中洛外図。
N「武門の後継争いは京を炎と戦乱で覆った。しかしながら兄弟縁者の戦いは血の繋がり一縷の縁が互いに止めを刺すことを躊躇わせた。故に戦はいつ終わるかも分らずに続く事となる。民を巻き込み、都を焼き尽くしながら」
○洛外・丘
煙の立つ都を見下ろす宗全。
宗全「何故こうなったのだ。儂が望む天命の戦は、こんな足の軽いものではない」
一人の家来が宗全に近づく。
宗全の家来「お館様。御台様からの贈り物が届いておりまする」
宗全「またか。突き返せ」
宗全の家来「はっ」
忌々しげに呟く宗全。
宗全「富子め。お今以上の羅刹となりおった。どいつもこいつも何故見抜けぬか。馬鹿ども」
○小川・百々橋
橋を渡り東拠点小川邸に向かう兵。
○小川邸・庭
広い館の庭に陣幕が張られている
勝元「諸将にふれを出す」
大鎧の武士達に告げる勝元。
勝元「御台様の贈物、丁重にお断りせよ」
武士達「ははーっ!」
× × ×
庭を出てゆく斯波兄と畠山兄。
斯波兄「どうする?」
畠山兄「銭が足らぬ。儂は受け取るぞ」
斯波兄「そうよ。戦じゃ戦じゃ!」
○花の御所・富子の間
帳簿に筆を入れているトミ。
トミ「次は西方の田舎大名達に銭を送る。戦は終わらせはせぬ」
遠くで応仁丸が泣いている。
(つづく)
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