僕のたった一つの
”悲しみの海”を眺めている。
足元には白く優しい砂浜。
穏やかな波の音。
海の上には大きな満月が浮かんでいる。
僕は、この海の中に棲む生物を想像する。
小さな蟹たちの泡が、波に揉まれて消えていく。
あるいは、岩穴に潜む鱓。
あるいは、水中でひっそり漂う海月。
波が大きくなった気がする。
まるで僕を呼んでいるみたいだ。
やっと、ちゃんと向かい合う時が来たのかも知れない。
足を浸ける。冷たいけれど、不思議と心地良かった。
この海を、怖いと感じていたのはいつだったかな。
今、最も生を感じている、と思った。
僕はもう一度、この海の中に棲む生物を想像する。
ヤドカリの吐いた砂が、海流に流されていく。
あるいは、深海へと潜っていく鯨。
そして、海へと歩みを進める…
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