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【鹿児島県】総合診療医・室原誉伶先生が語る離島医療との関わり方〜医者の肩書きを外した個人として〜◆Vol.2 #file8


こんにちは!離島医療人物図鑑のすずきはるえです!


今回は鹿児島県の甑島でお医者さんをやめてお米を作っているという室原先生にお話しを伺いました。


こちらの記事は

【鹿児島県】総合診療医・室原誉伶先生が語る離島医療との関わり方~医者の肩書きを外した個人として~◆Vol.1 #file8

の続きとなります。ぜひVol.1をご覧になってからこちらの記事をお読みください。


『患者さんの目線の先の風景を見てみたい』



---- 医師を辞めて、今は何をしているのでしょうか?

「畑を耕して、お米を作ってます」




--お米ですか?

「島の爺ちゃん、婆ちゃんたちはみんな畑をやっているんですよ。畑をやって土を触ってて、すごい元気なんです。
 
そんな爺ちゃん、婆ちゃんたちの昔の甑島の話を聞くのが結構好きなんですけど。

診療の合間に畑の話とか雑談をしていると、

『ここは一面田んぼで、水面に光る稲穂があってな』


って遠い目をして言うんですよ。



でも、今はそこには僕の背丈を超えるような草が生えていて、本当に田んぼだったのかと思うような荒地になってて。

僕はお米を作ったことが無かったですけど、

この人たちの目の先には何があるんだろう、その一面の水面に光る稲穂を見てみたいなと思いました。


昔の田園風景って、めちゃくちゃ綺麗じゃないですか。でも、実際に見たこと無いな、患者さんの言っていたものを見てみたいと思ったんです。

そんで、草払いから始めたんですが、やっていたら土日にめちゃくちゃ疲れるんですよ。平日医師として働いて土日にその田んぼのことをやっていたら、月曜日に疲れはててるんです。なんか本末転倒になっていて…。


いっそ医者を辞めて田んぼやってみようか、となりました。」


----なるほど。すごいですね!!

今回実際に甑島を室原さんと回っていると「田んぼ楽しみにしてるよー!頑張ってねー!」など、色々な島民の人が室原さんに声をかけてましたね。この2年間で室原先生が得た島民からの信頼感や、みんなが楽しみにしてることが伝わってきました。



『生活の隙間に入れるサービスを』


 
---- 他に取り組まれてることはありますか?

”御用聞き”ってサービスを始めました。

--御用聞きとは?

島が好きでずっと島で生きてきた人たちの生活の困りごと、ゴミ捨てだったり、電球交換みたいな、生活の隙間に入れるサービスです。


甑島は高齢化率が50%超えてて、2人に1人は65歳以上。しかも、ご高齢の方が一人で暮らしていて、お子さんたちも60歳くらいだけど本土に居ることが多いんです。

本当は島で生活したいけど、なかなか介護者不足で生活し続けられないということが多いです。


例えば、ポータブルトイレは使えるけど、ポータブルトイレに出したものをトイレに流す人がいないから自宅に帰れない人がいました。


なんか、悔しいじゃないですか。島が好きでずっと島で生きてきて、ずっと島で生活していた人を、医療を担っている自分たちがサポートできないからその人はここで暮らせないというのは何だかな、と思って。


御用聞きは、生活支援サービスみたいなものです。ちゃんとお金をとってシステムとして成り立つようなものを考えています。例えば5分100円で、1日1回薬が飲めてるか確認しますよ、とか。

ケアマネさんに聞いてみたら、1日一回薬が飲めてさえいれば家で過ごせるのに、それを確認できないから家で過ごせないとか、ごみ捨てができたら家で過ごせるのに、といった話がいくつかありました。


そういうのをサポートできるようなことをやりたいな、と思ってます。

もともと”御用聞き”という会社があって、そこがそういうサービスを10年くらいやっていて、利益を出せるノウハウができたから色々な人と共有します、というのがちょうど始まるタイミングでした。

それをまずは嫁さんとスモール・スタートで始めました。

島で生きてきた人は島で死なせてあげたいよねと思って。


誰も知らない本土に行くなんて、僕ら医療者が島に来た意味が無いなと思っています。」


 
---- 田んぼのこともそうだし、その事業もですが、”究極の緩和医療”ですね。心の処方箋だし、実際に社会的なケアだし、福祉だし、医療で賄えないことを全面的にやっていると言う感じで素晴らしいです。

『映画上映を通した教育』 


---- どうやら最近映画も上映するみたいですが…?

「自分は医者になるために点数を取る勉強をいっぱいしてきました。中学生の頃とか、間違えた問題の文章と答えを10回書かされるっていう地獄の塾に行ってたのですけど、そのときにやった勉強は一切意味ないなと思って。

振り返ると、自分で考える能力が一切身に付かなかったと思いました。子どもが3人いるので子育てのことを考えると、こういう教育でいいのか、どういう教育を子どもたちにしていけばいいのかと考えました。


その流れで『夢見る小学校』という映画を上映することにしました。



 
 子どもたちが田んぼをやって食育をやっているような映画なんですけど、この映画をみて、田んぼを甑島のこどもたちと一緒に作りたいなと思って。

どうせなら映画を甑島の子供たちと観よう。上映会をしようと。島には映画館がないから、そういうのができるのはいいかなと思って、やってみました。」



----実際に医者を辞めて、どうですか?


「逆に、医者をやっていた時より忙しんですよ。最近はお昼ご飯を食べる時間も無いくらいなんです。師匠にトラクターの使い方を教わったりしています。トラクターを使えるってかっこよくないですか(笑)そして、明日田植えなんですよ。色々と知らないことばかりで面白いです。」






今回は、室原先生が新たに取り組んでいる様々な活動について伺いました。


次回は、室原先生が考える離島医療の未来についてご紹介します。お楽しみに!

離島医療人物図鑑の活動について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください!

下甑島について、もっと知りたい方はこちらをご覧ください。



この記事を書いた人

 すずきはるえ  博士課程1年
東京都出身。現在は臨床検査技師として長野県の病院で働きながら社会人大学院生として奮闘中。
臨床検査技師は医師や看護師と比べて、将来的に機械やAIにとって変わられる職業と言われている中で、これからの臨床検査技師の役割を模索している。将来の夢は職種や地域間の間をつなぐことができる医療人になること。


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