ショートショート 三日坊主のクレーター


「た〜し〜ろ〜…た〜し〜ろ〜…」
「祐介君…呼ばれてるよ??」
「はい…」
「授業中だぞ…このままじゃお前、また赤点で補習だぞ〜(笑)」
「すみません…」
「月や地球に隕石が落下した衝撃で爆発した後がクレーターだぞ〜。これテスト出るからな〜」


下校時。
今日も俺は付き合っている真琴と一緒に帰る。




「今日も授業聞いてなかったね」
「うん…」
「まこが後でノート見せてあげる。勉強しようね」
「ありがと…なぁ〜まこ…何でこんな田舎に生まれて一生使うことのないこと勉強しなきゃいけないんだよ」
「まこだってわかんないよ(笑)でもテストで点数悪かったら補習だよ」
「うん…」
「私達ってきっとこの町で就職するし、一生この町から出ないから勉強なんて役に立たないのわかってるけど、きっと社会ってそんなことばかりじゃないのかな」



「俺…東京行こうこかな」
「えぇ〜…急になんで..??」
「これ…」



俺は抱えていたギターを落とさないように持ち直す。



「東京で音楽やりたいの??」
「まぁ…」
「売れる音楽の人なんてごく一部だよ」
「知ってる」
「祐介君がギター上手いのは知ってるけど、東京にはもっと上手い人がたくさんいるよ」
「知ってる」
「バンドも組めてないのに上京してうまくいくの??」
「わかんない」
「まこはどうするの」
「別れよう」
「何でそんなに音楽やりたいの」
「…」
「失敗したら就職どうするの」
「…」
「まこより音楽なの??」
「…」
「なんか言ってよ」


長い沈黙の後に祐介は振り絞るように声を出す。



「クレーター」
「えぇ…??」
「俺…初めてロックを聴いたとき、心にクレーターができたような衝撃があったんだ。俺は、まこやみんなのように、器用に立ち振る舞えないし、勉強もできないし、何やっても三日坊主だし。けど、音楽だけは、音楽だけは…ちゃんと人生をかけて向き合いたいんだよ」
「…」
「売れるとか売れないとか、向いてるとか向いてないとか、そんなことじゃなくて、ただただロックと正面から突撃して社会にクレーターを作りたいんだ」
「…(笑)」
「何だよ…」
「知ってたよ(笑)…試してただけ」
「えぇ…」
「…応援してるね」
「まこ…」



二人は長い間見つめ合う。



「けど…この曲はロックじゃないと思う」



三日坊主のクレーター




地学の授業中にサボって書いた、作詞ノートをまこに見られて赤面した祐介と笑っている真琴がいた。


(962文字)


たはらかにさんの毎週ショートショートに参加しております。
裏お題  三日坊主のクレーター




読んで頂きありがとうございます。
長くなってしまい失礼しました。

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