ショートショート 彦星誘拐 織姫妖怪


7月6日。

「彦星は誘拐した。お前とはもう二度と会わせない。お前達の愛は所詮偽物だ」

神様から渡された手紙を読んで私は絶望した。
せっかく1年間、熱心に働いてきたのに。
彦星様。貴方は何をされたんですか。
私の貴方への愛は本物です。

織姫は禁忌を破り天の川を渡ることにした。

「一度この川を渡れば二度と戻れなくなるかもしれないぞ」

天の川前に立つ役人に言われた一言は私の覚悟を試すものだった。

「構いません」

私は天の川を渡ることにした。







「織姫は誘拐した。彼女には二度と会わせない。お前達の愛は所詮偽物だ」

イタズラの手紙か??
くだらない手紙を。
愛が偽物なんて何を今更。

そりゃ最初は可愛かったけど、やっぱお金だろ。
彼女のおかげで牛追いの仕事もやめたし、毎日酒を飲んで遊ぶことができる。
正直、年に1回だけ会ってるくらいが丁度いい。
てか、お酒が切れてる。
ムカつくな。








織姫は必死に走り回り、色な人の話を聞き、彦星の居場所を見つけてしまった。
彦星は誘拐はされていなかった。
しかし部屋にはお酒の瓶が大量に散らばっていた。


「彦星様」
「織姫。お前なんでここに」
「貴方が誘拐されたと聞いたので」
「織姫のとこにもこのイタズラの手紙届いたのか!!」
「イタズラ??…だけど彦星様が無事でよかった。彦星様、牛追いのお仕事はどうされたのですか」

口吃る様子を見た織姫は仕事を辞めたこと察した。

「彦星様…真面目に仕事を…」

すると彦星は衝撃的なことを口にした

「別れよう。正直、お金目当てだった」

天の川を渡ってしまい、帰る手段もなく、彦星への愛だけで生きてきた織姫。
死の淵の深い底に落とされた気分だった。


気づくと織姫は、近くに転がっていた瓶で彦星の頭を殴り続けていた。







「妖怪だ。なんて気持ちの悪い身なりをしているのだろう」
「あいつに近づいたら俺たちも殺されるぞ」


「彦星…様…彦星…様」

全身血まみれの妖怪となってしまった織姫。
天の川に身を流れを任せることにした。








「彦星は誘拐した。お前とはもう二度と会わせない。お前達の愛は所詮偽物だ」
「織姫は誘拐した。彼女には二度と会わせない。お前達の愛は所詮偽物だ」


「七夕に何くだらないこと書いてるの」
「真実の愛って憧れるじゃん。だから壊したくなって。いや、本当に真実ならこのくらいじゃ壊れないか」
「真実の愛なんてないでしょ」
「年に1回くらいだからお互いに愛を感じれるんじゃないかな」
「そういえば天の川の底には真実の愛を探す妖怪がいるらしいよ」
「なんか、キモいね」

(1021文字)

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お題  彦星誘拐
裏お題 織姫妖怪



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