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イタリアの医学教育と卒業規定, イタリア医師免許, 初期研修 Tirocini abbilitanti, 専門医研修 Specializzando


【イタリアの医学部入試事情】

イタリアでは日本と同じく医学部人気が非常に高まっており、日本のような受験一本の全国医学部統一入試があります。日本と同じくイタリア国内では毎年の医学部受験は炸裂な受験競争となっています。国立大学・私立大学ともにイタリア語医学部と英語医学部がイタリア大学研究省の元に設置され、イタリア人の医学部志望者の中では、第一志望はイタリア語医学部、滑り止めとして英語医学部を志望することもあるようです(将来を見据えたり英米圏・海外で活躍を志望するイタリア人は英語医学部を第一志望にする選択肢もあります)。それぞれ、イタリア人を含む【EU枠定員】イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリア・トルコ・日本・中国・韓国・他諸外国の【Non-EU定員】に分かれており受験競争の相手は異なってきます

【イタリア医学部教育課程の概要】

イタリアの医学部は高校卒業後に入学する日本と同様、6年間の学部教育となっており日本や諸外国の医学部課程とよく似たカリキュラムとなっています。注意したいのはイタリア共和国の宗教は厳格なキリスト・カトリック教です。例えば解剖実習では国で十分な解剖御献体を得られないため、貴重な解剖実習の御検体を北米から輸入しているようです。日本や英米豪のようなしっかりとした解剖学実習は (一般的には) 行えないようです。外科•整形外科専門医研修の教育のために用いた御検体をその後に医学生が見学・実習するといった感じです。そのため、既に解剖された御献体を見学するといった感じでしょうか。その代わり、3DシュミレーターやAIなど最先端の幅広い教材を用いている大学もあるようです。イタリアは日本や英米豪と違い、臨床能力の観点より論理的な座学を中心とする医学教育で、6年生の最後まで講義と試験、卒論執筆が医学部教育の中心となります。その分の臨床手技は6年生の卒論実習や卒後専門医研修で経験を積みます。ただアメリカECFMG•USMLE受験資格・認証となる「2023/2024年問題」に向け、十分な臨床実習時間数を満たすためカリキュラムの大幅な見直しをイタリア全国の医学部で行っており、それについては問題はないかと思われます。

日本の医学部と同様、大概2年生または3年生までに基礎医学課程を終え、順次、臨床・病態生理の講義へ移ります。また以上に書いた「ECFMG2023年問題」に向け、日本と同じように各大学がカリキュラムを変更し、より臨床実習期間を多く組むようになってきています。ただ日本や欧米諸国と違い、CBTやOSCEに該当する共用試験は、今のところイタリアにはありません

イタリア医学部の臨床実習では、日本や他欧米諸国と比較すると、臨床に触れられる機会は大変に少ないです。「ほんとか?」と思われるかもしれませんが、本当です。4週間の臨床実習期間は組まれても、基本的に実習は昼12時をもって終わりです。午後は自由に過ごすことができます。4週間の実習とはあっても、週に1、2回しか行かなくてよい、本当にただ見学だけで何もすることがない、病棟看護師に病棟を追い出される、外来担当医に実習から追い出される、朝5分しか病棟に行かなかった、など。臨床手技の実習が授業の中で全くないので、イタリア人同級生はほとんど、採血の仕方、ましてや水銀血圧計で血圧の測り方も分からない事がほとんどです。

その埋め合わせとして、自由選択のElective期間や長期休暇を利用し、積極的に英米豪などの病院や日本の病院で実習する事をお勧めします。

【各単位科目の点数と成績規定】

日本の大学では主に、ABC判定(大学により%基準はまちまち)や、試験の100%中何%以上が合格か、アメリカの大学学部ではGPAなどが評価基準になります。
イタリアでは各科目・単位の満点は「30」
満点30を取るとHonoursとされます。
イタリア全土の医学部では「18/30」が試験・単位の合否基準となります。イタリアで卒後専門医研修・専門医取得を望むのであれば、大学での成績がご自身の望む臨床科と研修病院マッチングに大変に影響するので、全ての科目で限りなく30点満点を目指す必要があります。留学生の大多数は卒後研修 residencyを他国へ行くか自国へ帰国するので成績を特に気にする必要はないでしょう。私の経験的に最低22点前後以上取れれば、試験成績をrejectしなくて良いと思います。

もしイタリアで卒後専門医研修(研修医・イタリアでそのまま専門医を取りたい)を行いたいのであれば、卒業時までのすべての科目・単位の平均点(/30)が希望診療科選択と卒後専門医研修病院マッチングへ影響するので、イタリア人はなるべく高得点、限りなく30に近い成績を得るために卒業までに何度も同じ試験を受け続けることもあります。合格しRejectしなければそれが単位成績となります。ちなみにうちの大学各科の教授をされている方の医学部卒業時平均成績は名門大学で「満点30」という先生が多いです。

【医学部の進級規定】

イタリアの大学教育では各科目試験は、伝統的に卒業まで何度でもチャレンジすることができます(大学在学中の成績が、イタリア国内での希望診療科領域と卒後専門医研修病院マッチングに大変に影響するからです。他学部では就職に影響するのかもしれません)。周囲や同級生をみると医学部最終学年の6年生でも2年生の科目試験が残っていることも結構ザラです。
各学年の進級規定は基本的に『授業出席率』となります。各大学により異なると思いますが、僕の大学では『最低67%の授業出席率、実習は80%の出席率』が進級・単位取得の規則となっています。
進級はできても同級生と同じく授業は受講できますが、学年が上がるごとに『規定科目の単位を取っていないと試験を受けられない科目』が増えてくるので、
医学部1~3年生の基礎医学科目は頑張って学年内に受かるようになんとか努力しましょう。医学部基礎医学の学年は、初めての踏ん張りどころです。
またさらに注意したいのは、

学生としてイタリア入国後の2年目以降は『滞在許可証更新の規則として、2科目以上の単位・試験(実習科目含む)を合格・取得している事』です。(イタリア入国初年度は1科目以上の合格・単位取得です。)

【卒業規定】

イタリアの医学部教育は日本や諸外国の医学教育と同様、ほとんどの場合、1年生から6年生まですべての受講科目が必修科目となります。

① 全ての科目試験に合格し単位取得する事 :実習科目や病棟実習、卒論の単位も全て含まれます

② 医学部6年次『卒業論文執筆』:僕の大学では卒業論文登録申請は5年次の4月から受付開始、最低限8ヶ月間の縛りがあります。

③ 医学部5・6年次の『研修医期間』:日本の卒後臨床研修に相当します。イタリア大学教育省の規定で『内科1ヶ月、外科1ヶ月、地域医療(開業医)1ヶ月の合計3ヶ月』となります。コロナ禍以前は医学部卒業後のものでしたが、コロナ以降、医学部教育課程に組み込まれることとなりました。ただし主体はあくまでも「見学」です。

④上記3項目を修了、卒業時、卒論プレゼンテーション・教授討論会にて自身の卒論を発表・討論した後、「Laurea Magistrale di Medicina e Chirurgia (Bachelor of Medicine & Surgery 医学士) 」が授与され、晴れてイタリア医師免許発行となります。

【イタリアの医師国家試験】

コロナ禍前までは卒後のイタリア医師国家試験が存在し、これに合格しないとイタリアの医師免許発行はされませんでした。しかしコロナ後にこれは撤廃され、『大学医学部教育課程の卒業・学位取得をもって、イタリアの医師免許が発行される』こととなりました。

つまり単にイタリア医師免許取得のための医師国家試験はなくなりました。

【イタリアの初期研修・専門医研修課程 Specializzando】

前項で紹介したように、イタリアの日本で言う初期研修医期間は医学部教育課程に組み込まれました。イタリアでは専門医を取らなくても医師活動・医療行為は原則できることとなっています。しかし専門医資格を持っていないと現実的にイタリア国内では医師としての仕事がほとんどないため、医学部卒業後、イタリア国内でそのまま医療活動・経験・専門医取得を積みたい人は専門医研修課程へ進みます。そのためには専門医研修の為の医師国家統一試験『Esami di Stato』を受験する必要があります。コロナ以前イタリア医師免許発行の為だった卒後国家試験は、今は専門医研修選考の国内統一試験となりました。内容やプール問題は変わっていない印象です。
このEsami di Statoの点数により、希望診療科や受ける専門医研修病院が決まります。大学での成績も加味されますが、Esami di Statoの点数が一番となります。点数順でランキングされマッチングとなります。

ちなみにうちの大学附属病院 "Ospedale San Raffaele" は、例年各診療科卒後研修で一番人気となっており、少ない定員に大多数の応募が集まるようです。私立病院兼IRCCS(公立病院)ですが、イタリアでは最先端の設備と、イタリアはたまたEUでの名だたる教授・医師を抱え、幅広く様々な研究を行っています。研修の実技内容はやはり病院ごとに異なるみたいですが、世界中にコネクションを持つ名医とコネクションを作りたい・履歴書に箔をつけたいと応募する卒業生も多いようです。

最後にイタリア卒後専門医研修で大事な事は、「卒後専門医研修の身であっても、給料はもらえるものの、学生の身分」だということです。各研修プログラムは「学校」となります。研修内容は病棟業務と当直・救急外来当直など。専門研修医での臨床手技は日本や他欧米と比べると大変に少なく、各専門領域により期間は異なるものの、研修修了時には医学部卒業時と同じく「教授討論会」にて「論文発表」が必須となり、晴れて専門医取得となります。

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