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新潟旅行記: 道の思い出

バイクツーリングで何が楽しいか、というと一番はやはり「移動」と思います。この感覚、バイクに乗らない人やドライブが趣味でない人には伝わりにくいかもしれません。

旅行のメインディッシュは旅先で何をするかであって、通常の場合、移動はそのための手段にすぎません。なんならうっすら苦痛さえ伴うものなんですが、バイクはむしろ移動こそが「アクティビティ」になる乗り物なのです。

曲がりくねった走りにくい道は、例えるなら難しいアスレチックのコースを攻略するようなものでしょうか。
ブレーキやアクセル、ギアをうまく操作しながら、斜度のきつい山道やカーブを乗り越えた時、頭のなかで「clear!」とファンファーレがなります。
そうして障害をひとつひとつ乗り越えた先に、思いもかけない風景が広がっている。それが見たくてバイカーは遠くに向かうのです。

例えるならまんじゅうの「皮」の部分をすごく味わって食べているようなものです。かといって「具」、すなわち旅行先の楽しみがないわけではないので、一粒で二度美味しい感じがします。

なので、バイカーにとっては、「どこにいくか」より「どこを通るか」を優先して目的地を決めたりします。
走っていて楽しい道を通ることが、旅の目的そのものになる感じですね。
そして「楽しい」の基準も車とは違い、細かったりクネクネしていたり、険しかったりすると高ポイントになります。

今回の旅で特に印象に残ったのは、下記3種類の道でした。

  1. 国道299号線-メルヘン街道

  2. ビーナスライン

  3. 長野信越線-北国街道-越後七浦シーサイドライン

全体の行程に当てはめてみると、こんな感じですね。
東京→秩父→(1:国道299号線-メルヘン街道)→諏訪→(2:ビーナスライン)→長野→(3:長野信濃線-北国街道-越後七浦シーサイドライン)→新潟→東京

それぞれの道について、特に印象に残った点をあげてみます。

1. 国道299号線-メルヘン街道

埼玉県入間市から長野県茅野市に抜ける、総延長202㎞の国道です。
長野県側の一部は「メルヘン街道」と言われていて、その名の通り、棚田や花々、高原の道などがライダーを和ませてくれます。

れっきとした国道ではありますが、一車線のみの隘路が続く区間も存在し、いわゆる「酷道」の一種とも言われています。
特に秩父を越えて十石峠に向かうあたりで酷道が本気を出しはじめ、一車線しかないような隘路が続きます。とはいえ道は綺麗に清掃されていて、落ち葉などが堆積しているということもなく、バイクであれば快適に走ることができました。

299号線の途中、これでもれっきとした国道
十石峠展望台
十石峠展望台から見た景色


長野県佐久穂町から長野県茅野市に抜ける区間は「メルヘン街道」と呼ばれます。
私が訪れた5月の初頭は、ちょうど「花もも」が見ごろの季節。ピンクと赤が交互に植えられた、花の並木道が綺麗でした。
花の並木道を越えて、つづら折りの街道は、日本の国道において二番目に標高の高い麦草峠(標高2,127m)にむけてぐんぐん高度を上げていきます。
辿り着いた高原の道は車も少なくまさに快走路と言った風情。高原のさわやかな空気が本当に美味いです。

ですが標高が高いため凄く寒い!さすがに路面が凍結していることはなかったですが、道路わきには残雪が盛られていて、樹々にはうっすら雪が積もっていました。
ヒートテックの一番分厚いやつを着込んでいてよかったです。このあたりは初夏より、もっと暑い季節にくるのがおススメかも。

途中に休憩で立ち寄ったロッヂで甘酒とそばかりんとうをいただきました。
体温と元気を補給してから茅野市にむかって降り、諏訪湖近くのホステルで一泊しました。ペンションやレストランがそこそこあって、休憩を取りやすいのも、メルヘン街道の魅力かもしれません。

宿泊もできるっぽい
甘酒とそばかりんとう

全体を通して走ってみての感想ですが、秩父から佐久穂までの道は完全に酷道のため、あえて険しい道を走ってみたい方以外には正直おススメできないです……とくに車格の大きい車だと、すれ違いすら難しくドライブを楽しむどころではないと思います。バイカーからすれば乗り越えるのが楽しい道なのですが。
メルヘン街道から茅野市にかけては、純粋に高原を走る清々しさがあり、万人におススメできます。
東京方面からですと、上信越自動車道の八千穂高原ICから入ることができますので、そのあたりからドライブするのが楽しそうです。後述のビーナスラインにも途中で繋がっていますので、そちらに向かうのも面白そうですね。

2. ビーナスライン

ビーナスラインは長野県茅野市から美ヶ原高原美術館へと続く全長76kmの観光道路です。元々は有料道路でしたが、2002年に全線無料解放されたとのこと。

ビーナスラインを走ったのは5月3日。
この日は朝6時頃に出発し、諏訪湖を一望できる立石公園に立ち寄ったあとでビーナスラインに向かいました。

立石公園から見た諏訪湖。映画「君の名は。」の聖地だそうです。

立石公園から蓼科湖に向かい、その後白樺湖を経由して霧ヶ峰の方に進路を向けます。高原の爽やかな森林地帯を抜け、たどり着いたのはまさに空を走るような快走路でした。
山肌をバターナイフで削ったように道がついていて、眺望は青い空に吸い込まれるように続いていました。ここまで気持ちよく走れる道は、今回の旅どころか人生ではじめてでした。

ビーナスラインからの風景。こういう絶景がずっと続きます。

ビーナスラインはそこかしこに、ライダーやドライバーが休憩できるよう道の駅や茶屋が整備されています。
そのうちのひとつ、三峰茶屋は高ボッチ高原を一望できる大眺望が広がっていました。見渡す限りの大パノラマ。私は以前よく登山をしていたのですが、ここまでの眺望は登山してもなかなか見れるものではありません。
車で行けるところでこれほどの景色が拝めるとは。日本の美しさを再認識させられたような気分でした。

茶屋の一つ、三峰茶屋を裏から
三峰茶屋から数分歩いた先の絶景

美ヶ原高原美術館まで辿り着くと、ビーナスラインも終りです。つづら折りの坂道で一気に高度をあげ、たどり着いたのは不思議な彫刻が所せましと立ち並ぶ異世界のような美術館でした。
美ヶ原高原美術館は箱根の彫刻の森美術館の姉妹施設で、同じ財団が運営しているとのこと。入館料は大人一人1000円になります。道の駅もかねているので、ドライブインとして利用することもできます。
広大な敷地内を散策していると奇妙な彫像たちが、自分の内面になにか語りかけて来るかのような……いや正直よくわからなかったんですが。それでも、作家の情熱をそのまま取り出したような彫刻たちは一見の価値ありです。

オブジェのひとつ。なんだか分かりませんが感情を揺さぶられます。
組体操?
標高1981mにある美術館
最高地点から見た高原の風景。絵にもかけない美しさ

ビーナスライン、聞きしに勝る素晴らしい道でした。一度はバイクで走ってみたいという自分の夢が叶いました。やっぱりちょっと寒かったので、次はもう少し暑い時期に来るのも良いかもしれません。

3. 長野信濃線-北国街道-越後七浦シーサイドライン

長野県から新潟に続く一般道です。
長野信濃線は黒姫高原や野尻湖、妙香山のそばを通る広くて伸びやかな道で、遠くに見える白く雪化粧が施された妙香山が美しかったです。
高速道路のように整備された道ですが、通った日は車の量もそれほど多くなく、同じペースでずっと走り続ける事ができて快適な道でした。

越後七浦シーサイドラインは、長岡市野積浜から角田浜を結ぶ13.9kmの道で、元々は有料道路だったようです。
佐渡を望む海岸の絶景と、奇岩巨岩が次々と現れる変化に富んだ道でした。

岸壁の道。厳しい自然と人工物の拮抗。
岩の切れ目に伸びる道。道。

その終着点、角田浜海水浴場はシーズンオフですがまばらに人影があり、知る人ぞ知る景勝地という感じでした。浜辺の解放感を味わっていると右手にひょっこり突き出た角田岬と、その上に立つ灯台が見えました。
角田岬に上った時の写真です。キラキラ輝く日本海がとてもきれい。ここで夕日が沈むのを見てみたかったですが、慣れない道で暗くなるのも怖いのでまたの機会としました。星空も綺麗なんだろうな。

角田浜。左下に見えるのが角田岬灯台
角田岬灯台。細い道が続いています。

角田岬はトンネルで入り江に通じており、岸壁をくりぬいて作ったような道があって、散策していて面白かったです。
いま考えると、この道はなんの目的で作られたのだろう……観光道にしては手すりなどがないですし、灯台のメンテナンス用の道? それとも、角田浜が整備される前の古い道の名残でしょうか。
(後からしらべると、「判官舟隠し」という由来があるそうです。源義経関係ですね。そのうち大河に出るかも?)

角田岬灯台下の謎のトンネル。抜けた先は……
こんな感じ。「判官舟かくし」という入り江。

という訳で、秩父から新潟に抜けるいくつかの道をピックアップしてみました。
今回の旅で道を走る楽しさを再認識しましたが、日本にはまだまだ面白い道がたくさんあるのだと思いました。7月に行く予定の北海道は名道のオンパレードのようですので、いまから本当に楽しみです。

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