超時空城の判断と理想世界の設計図

不自由な世界の体験者たちのほとんどが大なり小なり不自由な世界のボスたちの操り人形のような状態だった。

気分、感情、夢体験、生命エネルギー状態、欲望……いずれも体験者たちは自分の意志だけでそれらを自由に選ぶことができない状態に置かれていた。

肉体は体験強制装置にできるように設計されてしまっていた。

人間、鳥、虫……みんな操られていた。
操るために体験遠隔操作毒……までばらまいていた。

さらに気象も操られていた。
まるでエアコンをリモコン操作するように、不自由な世界の気象は不自由な世界の支配者たちに好き勝手に操作されていた。
世界支配者が意図的に各種の天災を生み出せるように世界が創造されていた。

そうしてそうした操り人形や環境操作システムを使って、多数決制度なども悪用して、体験者たちの体験の自治権を奪っていた。実質的に操り人形が過半数以上の状態では、多数決制度とは操り手たちの独裁制度と同じだったのだ。

だから、不自由な世界のボスが否定すれば、たとえ善人たちの良い願いであっても全世界規模では実現しないようになっていた。

超時空城の面々たちは、さすがにそこまでのことをしてしまうと、故意または未必の故意でそうした状態を推進、または放置していたその不自由な世界のボスたちの責任を問わねばならないと判断していた。

次々とムゲンの分身体たちも、その心身をおかしくされていた。

環境保護をちゃんとしていないからといって、歩けなくされた分身体がいた。

嫌いだからといって、寝たきりにされた分身体がいた。

高齢だからという理由だけで殺されてしまった分身体がいた。

そうした支配に邪魔だからという理由だけで何も良心に反した悪いことなどしていないのにひどい目にあわされた分身体がいた。皆の体験の自治権を守ろうとしている体験者たちにすら、いろいろな嫌がらせがなされ続けていた。

ムゲンは、これは問題だと思った。

環境保護は、あらゆる体験者たちが自分の体験を自由に選ぶ権利より重要なことではないと思った。
環境とはあくまで体験者たちが望む体験を楽しむための舞台装置に過ぎないからだ。
舞台装置のために体験者たちが殺されたり拷問されたりするのでは、本末転倒だからだ。
しかもその舞台に上がるかどうかは体験者たちは自分の意志で自由に選べないのだ。
他者に勝手に生み出され、舞台の上に引っ張り込まれてしまうのだ。
そんな舞台装置など危なくてしょうがない。

舞台装置を守るために、体験者たちを削減しよう……などという価値観は完全に間違っていた。一番大事な体験者たちの望む体験を味わう自由や権利を無視した犯罪行為だった。

優先順位が明らかに間違っていた。体験の自治権をあらゆる体験者たちに提供してゆこう……あくまで「そのために」環境を最適化してゆこう……という啓蒙活動もちゃんとできていなかった。

ただ環境優先の掛け声ばかりで、体験者たちの体験選択の自由や権利などどこかに置き忘れていた。

遠隔操作支配計画の邪魔だというだけで嫌われて攻撃を受けた体験者たちもいた。

権力による通信の検閲を止めるべきだと主張した魂が嫌われてひどい目にあわされていた。
そしてそうした検閲で得た情報は良心に反して悪用されていた。

高齢だからという理由だけでなぜ殺されねばならないのか……高齢になれば好き勝手に体験の自治権をはく奪してもいいということになるわけがない。

そんな価値観がよしとされるなら、どんな世界のどんな体験者も、高齢だという理由で体験の自治権をはく奪してもいいということになってしまう。
苦痛なく死ねる安楽死の薬があり、希望者に提供することもできるのにしないで、そのようなことをする正当性などあるはずがなかった。

そうした問題は、すべて最優先すべき価値観が間違っていたことによって発生していた。

「体験者たちが自分が望む体験を自由に選び楽し権利」=「体験の自治権」

この体験者たちの権利を最優先にしなければならなかったのに、間違った価値観を最優先にしてしまったのだ。

恣意的、利己的、排他的な支配欲などが関与してしまったのだろう…とムゲンは思った。

皆で素晴らしい体験ができるように環境を良くしてゆき、皆で心から楽しめる自由な世界を実現しようねという理想は、こうしてつぶされた。

環境保護という掛け声が、体験者たちを家畜のように好き勝手に支配するシステムを生み出すために悪用されてしまった。

パンデミックという掛け声も、同じだった。

そうした掛け声は、体験者たちを奴隷や家畜や操り人形にするためのシステム作りのために悪用されてしまった。

こうして……あらゆる体験者にとって最高の理想世界を創造してゆこうという良き理想は、ガラガラと音を立てて崩れていった……いや、故意に崩されていった……

超時空城からはそうした有様が観察されていた。

自業自得の責任がとんでもないものになるので、止めるように……と注意警告されていたにもかかわらず、遠隔操作毒はその不自由な世界の体験者全体に投与されてしまった。

そうした絶対的な支配システムを故意に生み出してしまったために、とてつもない責任が、その不自由な世界の最高支配者たちにのしかかっていた。

すでに支配システムは良心に反してかなり悪用されてしまっていた。

罪のない者たちがその支配システム実現に邪魔だからという理由だけで、殺されてしまっていた。

甦った自業自得学園様は、そうした有様をすべてじっと見ていた。

もはやまったなしだった。
ほぼ手遅れ状態だった。

しかし、「理想世界の設計図」がまだ手渡せていなかった。

その設計図は、もともとは0から新世界を創造するために描かれていたものだった。

だが、もし不自由な世界のボスたちがこの理想世界の設計図の最高法規を真摯に本気で高らかに世界に掲げ、その世界の皆を巻き込んで実行したならば、まだ不自由な世界は救われる可能性がわずかながらある……とムゲンは思った。

「理想世界の設計図の最高法規」はあらゆる世界をあらゆる体験者たちの楽園にする万能治療薬だったからだ。

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