刑務所楽園化のアルバイト

自業自得学園の真っ赤な大きな口の中に全知ちゃんのスリムな体が滑り込んでゆく……

なかなかシュールな光景だ……

ムゲンの意識の一部が全知ちゃんの超時空体と融合している…

意識を向けたものについての情報がムゲンの意識に流れ込んでくる。

ムゲンは「理想世界の設計図」を意識領域に展開する。

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理想世界の設計図

★目指すべき新世界の方向は、

「あらゆる体験者が自らの意志だけで自らの体験のすべてを完全に自由にコントロールできるようにし、自らが選んだ体験を心から楽しみ続けれる状態にしてゆくこと」

この価値観を新世界の最高法規とすること

★ここで言う「あらゆる体験者」とは、

人間だけでなく体験能力を持つすべての意識、つまりは肉体的存在、霊的存在、またそれ以外の体験能力を有するすべての意識=体験者たち…が含まれると理解すること

人間、動物、神、悪魔、天使、宇宙人、地底人、異世界人、魔物、幽霊、意識だけの存在、光の存在、闇の存在……などすべての存在たちは、体験能力を持っている以上、体験者であると理解すること

★ここで言う「体験」とは、

あらゆるタイプの苦楽の体験、肉体に備わっている五感等の諸感覚から生じる体験、その他の精神的な体験、夢世界などで生じるあらゆる種類の体験、その他あらゆる体験者たちが感受できるあらゆる体験のすべてを意味すると理解すること

ここでいう体験の中には、上記以外にも本能や欲望や気分や感情や生命エネルギーの高低状態やあらゆるタイプの悟りの体験や他者から尊敬されたり崇められたり感謝されたり、恨まれたり憎まれたり否定されたりする体験……などもすべて含まれる。よってそうした体験すべてを体験者たちが自分の意志だけで完全に自由に選び心から楽しみ続けれる世界を目指す必要があると理解しなければならない

★あらゆる体験者たちは、自らの望まない体験をしたくないと願い、自らの望む体験を味わいたいと願っている。
よって、そうした願いを持つ体験者同士は、その願いにおいて等しい権利を持つ者でなければならないと理解し、上も下もなく貴賤もないと理解する必要がある。この自らの体験を自らの意志で完全に自由に選べる権利のことをあらゆる体験者に付与され、提供されるべき「体験の自治権」という。

体験者たちがこの願いを持っている以上、その願いを同じく持つ者同士として同志であると理解する必要がある。

知性やあらゆる力は、体験者共通のこうした願いを理解し、上記の最高法規を実現し推進し守り維持するためにあるのだと理解すること。

よって、上記最高法規に反したことを実現推進するために知性や各種の力、権力、武力、財力、その他の一切の力や知性や特殊能力を行使することは許されないものだと理解すること。

あらゆる知識や力は、上記の最高法規に反して使うことは認められないのだと理解すること。
また、であれば当然、上記最初に記された最高法規に反した法や規則を制定してはならないと理解すること。
現状の世界にそのような法や規則があってもそうした法や規則に諾々と従ってはならないと理解すること。
そのような法や規則を制定し、施行すること自体があらゆる世界を包含している「意識世界全体」で違法であると理解すること。

よって、上記最初に記された最高法規に反した世界を創造する行為もまた違法であったのだと理解すること。
なぜ違法であり許されないかといえば、上記の最高法規に反する行為は、あらゆる体験者たちの持つ共通の願いを叶わないようにする選択であり、行為だからである。

だから、上記最高法規に反した行為を実行しようとする者たちの命令にも諾々と従ってはならないのだと理解する必要がある。

上記の内容を理解でき、上記の最高法規を自らの意志とすることができるもののみが新世界を管理し創造する資格を持つことになる。

★追加条文

★あらゆる体験者たちを検閲し選別しようとするのではなく、理想世界の最高法規を推進する意志が自発的に持てるように啓蒙育成してゆくこと。魂の選別ではなく、魂たちの啓蒙育成を目指すこと
体験者たちの自業自得の自己責任の範囲を超えて恣意的な罰を与えたり選別したりしないこと

★自業自得の責任が発生する場合には、体験者たちはその責任の内容をすぐに通知される世界仕様にする必要がある

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まずは、この設計図をアルバイトたちの意識に転送する。

全知ちゃんに協力してもらってありとあらゆる種族たちの意識の中に転送してもらった。

「とにかく、みんなが自分の体験を自由にえらべるようにすればいいだけってことなのね」

と、天使族が言う。

悪魔族が、

「そんなん、わしらの本能とちゃうから無理ですわ」

などと言っている。

神族などは、

「そんなことしたら神族の仕事がなくなってしまうじゃないか」

などとボヤいている。

宇宙人族などは、

「上の許可が必要です」

などと言っている。

分身族は、

「兄貴~~~!!!」などと叫んでいる。

どうやら彼らは自業自得学園のロビーで楽園刑務所のプチモデルを作成中だったようだ。

いろいろな遊具とか工作道具が散乱している。

そのロビーの天蓋には、ずらりと立体映像が映し出されている。

どうやらお勉強中の魂たちの状況が映し出されているようだ。

そこにかの不自由な世界の支配者たちの姿も見つかった。

どうやら自分たちが与えた体験をいろいろ味わって悲鳴を上げているようだ。

それにしてもこんな苦しんでいる姿を皆に公開で見られるというのはプライバシー的にまずいんじゃないのかとムゲンは思う。

これではもう残酷な見世物みたいじゃないか……

すると、

「ムゲン殿、これもまた自業自得なのですよ」

などとテレパシー通話が入る。

どうやら超時空聖体の裁判長からの通話らしい。

「それって、どういうことですか?」とムゲンは説明を求める。

「つまり前にムゲン殿が問題提起してくれたかの不自由な世界では、その魂たちは他の魂たちのプライベートをすべて監視して皆で見世物みたいにしていたのだよ」

「あー、そうか~、なるほど…」とムゲンは納得する。

そして、

「さらにありとあらゆる方法で他の魂たちの体験の自治権をはく奪して拷問体験なども与えていたのだから、こうした処置も致し方がないお勉強ということになるのだよ」

などと裁判長は言われる。

「しかし、裁判長、あの時、確か拷問系のお勉強は参加自由なフリースクール型に切り替えるとお約束してくださったと思ったんですけど、これではちゃんと改善されていないんじゃないですか?」

「いやいや、ムゲン殿、それはあくまで被害者、いや、志願者の場合であって、ここにいる魂たちは積極的な加害者ということなので、その報いを受けるか受けないかを自由に選べるようにすると、悪いことをやりまくっても報いはぜんぜん受けないで済むことになってしまいますぞ」

「なるほど、それはちょっと問題ですね。

しかし、どうなんでしょう、彼らも他の体験者の体験の自治権をはく奪したいとか他の魂たちのプライバシーを覗き見たいとかの欲望とか願望とか本能とかが一切なければ、きっとそんなことはしなかったのではないでしょうか?」

「うむ、まあ、それはそうじゃろうなあ…」

「であれば、前にお約束していたそうした欲望とか願望とか本能を消してあげればよいのではないですか?」

「いや、まだ消してほしいと要請されておらんのだよ」

「ちなみに、要請すればそうした欲望を消してもらえることは教えてあげていたんですか?」

「いやまあ、あの当時は魂のテストもかねていたので何も説明せんかった……」

「それじゃあ、ちょっと問題ありではないですか?」

「しかし、ほら傍聴席におったたくさんの拷問犠牲者たちの訴えもあるから、無罪放免というわけにもいかんのだよ」

「でも、こうした自業自得の責任やペナルティについてはじめからちゃんと説明しておいて、かつ、欲望選択の自由が提供されていれば、そうしたことをしなかった可能性は高いんじゃないですか?」

「まあ、そう言われるとそうかもしれんが……」

「であれば、そうできるのに、そうしなかった超時空聖体様たちにも結構責任があるような気がしますが」

「しかし、拷問犠牲者たちからの訴えがあるからのう……」

「じゃあ、私が超時空聖体様たちを未必の故意ということで訴えたらどうなるんですか?」

「いやいやいや、それはあくまで悪党たちからの弾圧やストレスに負けない良い強い意志を育成するために必要なことでもあったんじゃからして、そこはご理解くださるじゃろう?」

「いやいやいや、裁判長、その価値観がもう時代遅れになっていて間違っているんだって前に言ったでしょう?」

「それは今後のことであって、昔のことについてではないと思うとったんじゃが……」

「いや、超時空世界では時間はいくらでも巻き戻せるじゃないですか。であればいくらでも過去のことでも手直しできますよね」

「しかし被害者たちからの訴えがあるからのう……」

「じゃあ被害者たちにひどい体験の償いとして最高の素晴らしい体験を味わえるようにしてあげる方がいいんじゃないですか? そのためのお仕事とかを彼らにやらせるとかすれば…。彼らに自業自得の拷問体験を与えてもそれで被害者たちが本当に満足するんでしょうか?

仮に、それで留飲が下がる方もいらっしゃるかもしれませんが、その後はどうなるんでしょう?

その後、被害者たちや加害者たちはどうなるんでしょう?

そもそもこうしたことになってしまったのは、体験者たち皆にちゃんとした体験の自治権が保証提供されていなかったからですよね。

皆が自分自身の体験を自分の意志だけで自由に選ぶことができない状態だったからですよね。

であれば、自業自得の罰を与えるだけでは問題が解決しないんじゃないですか?

そんなことよりも、誰もが自分自身の体験を自分の意志だけで自由に選べるようにしてあげる必要があるんじゃないですか?

そもそも自由意志がある魂たちがどこかでミスをすることは当たり前じゃないですか!

はじめから完全正解しか選べない魂なんてほとんどロボットと同じですよね。選択を間違うたびに拷問体験を自他共に味わわされる状態などおかしいでしょう?

であれば、自由意志で選べる範囲をちゃんと自分自身の体験だけに限定すべきじゃなかったんですか?

他者の体験まで自由に操作できるような状態を超時空世界が放置してしまったから、こうした結果になってしまったんでしょう?

ちゃんと体験の自治権推進の啓蒙活動などもしっかりやっていれば、こうした事態にはならなかったのではないですか?」

裁判長は、わかったわかったという感じでリアクションし、

「では、どのようにすればいいというのだ? ムゲン殿」

などと苦し紛れにムゲンに代案を要求してきた。

「ここに理想世界の設計図を持ってきました。この設計図はまだ未完成ですが、すでに最高法規は決まっていますので、この最高法規に沿って世界改革をしていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか? 要旨は、体験の自治権=体験選択の自由をあらゆる体験者に保証提供するという内容になっています」

「あいわかった、ではその設計図を我々も持ち帰って皆で前向きに検討してみるということでよいかのう…」

「はい、前向きに検討…、というか、皆さまの個人的な、あるいは種族的なご都合よりも、最高法規を最優先にお願いします」

裁判長は、ちょっとしぶしぶという感じではあったが、仕方なし…という感じで了承してくれた。

自業自得学園様がじっとその有様を見ていたのがよかったのかもしれない。

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