検閲や選別ではなく啓蒙成長が大事
結局のところ、不自由な世界の多くでは検閲や選別が流行してしまっていた。
魂たちを徹底的に検閲し、そして支配者都合で選別すればいいのだという感じの世界支配方法が流行してしまっていた。
だが、超時空体験図書館の記録を調べると、そうしたことをやり続けた世界は滅んでしまったことがわかった。
なぜかなのか?
ムゲンはその一部始終を観察してみた。
すると次のことがわかった。
検閲され、選別されて消されていった者たちの怨念のようなものがその世界の存続の可否に大きな影響を与えていたのだ。
その怨念は、時空間を超えてあらゆる時代や空間に影響を与えていたのだ。
とある世界では、社会の期待に反している浮浪者たちを選別し消してしまった。
すると、その浮浪者たちの怨念が、どういうわけか、超時空世界の浮浪者の心と共振してしまった。
そしてその超時空世界の浮浪者、つまりは浮浪超時空体は、その超時空体の特殊能力を使ってその世界を選別したくなってしまったのだ。
その結果、あえなくその世界は消えてしまった。
どうしてそうなってしまったのかの詳細まではムゲンは理解できなかったのだが、結果的にそうなってしまったのだ。
そして他の検閲や選別ばかり繰り返している世界においても、選別する理由にはいろいろあったが、決まって選別された者たちの怨念のようなものによって自滅したり、消されたりするという結果になっていた。
ただし、その選別の理由が、自業自得の自己責任という理由である場合だけは、選別された者の怨念が作用しない感じになっていた。
どうやら自業自得学園様が全部飲み込んでガードしていたようだ。
つまり身勝手な理由で魂たちを選別したりすると、選別した者たちがやはり身勝手な理由で全く予想外の魂に選別されるような結果になるらしかった。
なんじゃこりゃ? とムゲンははじめは思ったのだが、これはかなり気を付けなければならないことだなと思った。
要するに、安全策は、魂たちを検閲し身勝手な理由で選別するのではなく、良い意志、例えば、理想世界の最高法規を実現しようとする意志…などを持てるように魂たちを啓蒙し、その良心的な成長を手助けしてあげるような方法であるということがわかった。
体験図書館様様だ。
多くの世界の生滅のリプレイが見れるので、こうしたらこうなる、あーしたらあーなる…みたいな感じで未来予測ができる。
滅んでしまってからでは手遅れになるので、非常にありがたい仕組みだ。
そもそも選別するための検閲では問題だということになる。
そうではなく、理想世界の最高法規を推進するために必要な意志を啓蒙し、良心的な成長を促すことが必要らしい。
邪魔な魂は選別してしまえばそれでいい……という価値観が、誰もが素晴らしいと思えるような理想世界を実現推進するのかどうかという問題があるわけだ。
結論から言えば、実現推進できない。
それは当然だろう。
なぜなら選別されてしまった魂たちを取りこぼしてしまっているからだ。
つまり、あらゆる魂が素晴らしいと思える世界に、その方法では絶対にならないということになる。
この道理は、非常に簡単に理解できる。
あらゆる魂の啓蒙と成長を目指していなければ、誰もが素晴らしと思える世界にはならない。
そして選別された魂たちの怨念を封じることはできない。
それはそうした怨念が発生してしまった時点で、時空を超越してありとあらゆる魂たちのどうやら無意識下に影響を与えてしまうからだ。
するとどういうことになるのか……
選別した者たちが、今度は選別されることになってしまう。
自業自得の自己責任が問われる場合は、自分自身の選択の責任を取るというだけなので怨念は生じない。
どうやらそのような法則のようなものがあるらしい。
邪魔者など皆殺しにしてしまえばもはや逆襲されることは絶対にない……などと思っていたら大間違いだったのだ。
とある世界では、まさに世界支配者たち本人がどういうわけか乱心してその世界ごと自滅してしまった。
あるいは無名の科学者が、どういうわけかその世界を消滅させれる科学技術を見つけてしまって、どういうわけかその技術を自分の判断で使ってしまった結果、その世界が消えた。
あるいは操り人形にしたはずの魂が、突如、大事な場面で誤作動を起こして世界の自爆装置を起動してしまったりということもあった。
なぜそうなったのかはわからないが、そうした結果となってしまったのだ。
どれもこれも直接的には全く予想できないような形でそうした結果になってしまっていた。
そこでムゲンは、理想世界の設計図に次のような条文を追加した。
★あらゆる体験者たちを検閲し選別しようとするのではなく、理想世界の最高法規を推進する意志が自発的に持てるように啓蒙育成してゆくこと。魂の選別ではなく、魂たちの啓蒙育成を目指すこと
体験者たちの自業自得の自己責任の範囲を超えて恣意的な罰を与えたり選別したりしないこと
ムゲンは、そもそも体験自由自在よりどりみどりの完全なプライベート世界を魂たちに提供すれば、そもそも魂の選別などする必要など一切なくなるから、わざわざこうした条文を追加しなくてもいいかなあ……などとも思ったが、不自由な世界群の支配者たちにはちゃんとこうしたことも伝えておかないとおそらく失敗するだろうと思ったので、書き加えることにした。
誰もがお望み体験自由自在の完全プライベート世界で望む体験を自由に選んで満足できるようになれば、怨念などが生じることなど完全になくなるのになあ……とムゲンはボヤいた。