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300人突破でGo To トラブル この国の危機管理の行方

ついに都内の1日あたりの感染者数は300人の大台を突破。もはや日本全体で1000人を超えるのも時間の問題でしょう。そんな中で始まったGo to トラブル、もとい、「Go Toトラベル」でしたか、、、小池都知事が「冷房と暖房の両方をかけるようなこと」と揶揄したのは、なかなかセンスがある表現だったように思います。日本の死亡者の欧米に比べて少ないと言われていますが、アジア諸国の中では、人口10万人当たりに換算した死亡者数は、フィリピンに次いで2番目に高いそうです。あの中国よりも高い! そんな事実に目を向けず、経済優先に舵を切るこの国の行方に不安を抱える人は少なくないはずです。日本の危機管理はどうなっているのでしょうか、その行方は?

リスクマネジメントとクライシスマネジメント

ところで、日本語の「危機管理」という言葉は、事故や災害が起きる前に、なるべくそのリスクを洗い出し、そうした事故が起きないように、あるいは起きても被害を減らすように事前対策を講じる「リスクマネジメント」と、実際に事故や災害が起きた後にその被害をなるべく小さくする「クライシスマネジメント」の2つの言葉が組み合わさった概念として使われることが多いのですが、前者においては、「ガバナンス」が求められ、後者においては「ガバメント」が求められると私は考えています。

「ガバナンス」(governance)とは古代ギリシャ語の「舵取り」に由来する言葉で「組織などをまとめあげるために方針やルールなどを決めて、それらを組織内にあまねく行き渡らせて実行させること」です。その主体は権力者とは限らず、むしろ一般市民も含め、対象となる人々の合意形成の実質的なプロセスにあたるといえます。一人一人の意見を聞くなどして、それぞれが納得いくルールを作っていく過程がガバナンスです。

一方、ガバメント(government)は、政府が上の立場から行う法的拘束力のある統治システムとして使われるケースが多い言葉で、要は、政府でなくても、特定の立場の人たちが、権力を行使して、集団に対して一定の秩序を付与しようとすることと考えることができます。もちろんガバメントには、独裁的な、あるいは間違った判断が行われないようにする仕組みが必要になる。

ではなぜ、リスクマネジメントにガバナンスが求められるのか。それは、一人一人がリスクをどう定義し、受けとめるかは一律・同一なものではなく、それぞれの立場によって受け止め方が異なるからです。

例えば家の中にちょっとした段差があったとします。子供や高齢者にとってその段差は大きなリスクに映りますが、大人からすると気付きもしないためリスクとは考えられていないことが起き得ます。逆に、大人がぶつかりそうな梁があったとすると、子供にしてみたら届くわけもないためリスクとしては受け止められていません。それでも家庭の中には同じリスクとして存在していて、どちらかがケガをすることで家族は大変なことになります。新型コロナウイルスにあてはめて考えれば、そのリスクを重大と見る人もいるし、大したことがないと考える人もいるということです。このようなことを主観的リスクと客観的リスクというような言い方をしますが、そもそも、ある事象をいかにとらえるか、一人一人のリスクに対する考え方は異なるということです。だからこそ、組織がリスクマネジメントを行うには、誰に対してどのようなリスクがあるのかを把握し、そのリスクを回避、軽減するための一定のルールを作る必要があります。ここで求められるのがガバナンスです。つまり、なるべくそれぞれの意見を聞いて、合意形成を得ながらルールをつくっていく過程が大切なのです。

ガバメントが機能しない国

一方、いざ危機が顕在化して発生した際には、すべての人の意見を聞いて合意形成を図っているような時間はなく、権力を持ってでも人々の行動を統制するガバメントが求められることがあります。なぜなら、一人一人がそれぞれの考えに基づき勝手に行動を続ければ、その人が危険にさらされるばかりか、その人を助けようとする人、さらにその人の家族、周辺の人にも影響を与えてしまうからです。感染症はなおさらで、こうした人がウイルスをばら撒くことにもなってしまいます。

さらに、災害でも言われていることですが、危険が発生しているにもかかわらず安全行動をとらずに周りの人と同じように行動しようとする「集団性バイアス」、自分だけは大丈夫だと思ってしまう「楽観性バイアス」や「正常性バイアス」、自分は対策がしっかりしているから大丈夫だと思ってしまう「ベテランバイアス」が加わり、さらには、自分は感染しても問題ないから普段通りの行動を取り続ける、という「リスクテイカー」までもが現れ、人々の行動はバラバラになります。したがって、こうした行動を規制するために、一定の強制力を持ったガバメントが求められるようになります。

もちろん、危機が発生したからといって、一切、合意形成が必要なくなるわけではなく、理想的には、合意形成を得ながら、さらに強いメッセージがあればいいのですが、普段、合意形成どころか話し合いも行われていない状態で、危機が発生してからあわてて合意形成をするようなことはできませんから、そのような場合、ある強引さを持ってしても、トップは、人々の行動を規制することになります。また、感染症のように、比較的ゆっくりと状況が変わっていく危機の場合、どこからが危機かを明確に線引きすることもできず、リスクマネジメントとクライシスマネジメントは同時進行で行われていくことになります。つまりガバナンスもガバメントも両立しなければいけない難しい状況と言えます。

ただし、感染拡大時において最も重要なのは、やはりトップの指示です。そのトップのメッセージを多くの人に受け入れられやすいようにするためには、専門的知見からの分析に加え、真摯な姿勢、わかりやすい伝え方などで、専門家集団や広報担当など、トップを支援する機能が必要になります。これが欠けると、単なる独裁とも受けとられ、人を動かすどころか、市民からの反発を買い、混乱に陥りかねません。

今何が危険なのか、それに対してどう対処すべきなのかを、「信頼」と「相互理解」のもとで、人々に伝えていくのがトップの役割です。こうしたことをリスクコミュニケーションと呼びます。この人が言うことなら信じられるという意識が持たれているか、相手が何を求めているのか、何を言いたいのかを双方に理解しているかが、リスクコミュニケーションの要諦となります。

翻っていまの日本の状況はどうでしょう? 政府と市民の信頼関係は? 相互理解はあるのでしょうか? 今大切なのは、新型コロナウイルス発生からの過程をしっかり振り返り、何がよかったのか、何が悪かったのか、これから何をすべきかをしっかり検証した上で、次に備えることだと思います。

最後にお知らせ。

でも、具体的にどう検証? どう備えればいいの? そもそも最初の頃のことなんて覚えていない・・・。

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最後、宣伝になりましたが、ワクチンを待つだけでなく、自ら「知識のワクチン」を身に付けることが大切です。