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眠れない

今やクリーンワークが推奨されて、どんな仕事も週40時間が会社に義務付けられ、勤務実態は会社ではなく労働局がデジタル管理をしている。
ちょっと前に「ブラック企業」なんて言葉もあったようだが、今ではそんな言葉はなくなっていた。
給料も何も全て国が管理していて、会社は従業員にたいして必要経費を労働局に納めるようになっている。

従業員の給料はどこに転職しても、年齢と学歴、取得資格、キャリアなどから給料が自動的に補償されている。
会社は従業員の給料が保障できなければ雇用することすらできない。
働く側は、働く会社も管理され適正な会社が紹介される。
結果的に就職難という言葉もなくなり、学校を卒業し就職をするとなると適正職業と会社が選択肢がある人間は提案され選択することでができる。

じゃあ、適性が出ない人間はどうなるのか?

「あぁ、もうすぐ職業適性が出てくるよ…。俺、不適正だったらどうしよう。」
「何言っているんだ、今の世の中は不適正はないって勉強しただろ。」
「わかってるけど、でも仕事できないやつだっているんじゃないのか?そんな奴は本当にいないのか?」
「そんなこと疑問に持つ奴は、多分今の日本には一人もいないと思うぜ。」
「そうだよな。お前は大学適性でて進学できるからいいよなぁ。」
「まぁな、でも本当は工学部に行きたかったんだけど、経済学部だってよ。俺そんなに金勘定が得意なんかね。わかんねぇ。」
「俺もわかんねぇよ。」

ポンッ
スマホのプッシュ通知が来た。

ドキドキしながら通知をタップする。

「あなたの適正職業は…なんだ?」
「どうした?清掃業務か?」
「ちげーよ。でも、似た感じか?システムクリーナーってなんだ?
ついでに就職先は?え?
厚生省だって…」
「おお、すげー!厚生省なんて大抜擢じゃん。」

正直、僕も何がなんだかわからなくなった。

4月、何はともあれ。僕は厚生省に就職した。
"厚生省労働部システムクリーン課に配属を命ずる。"
そんな辞令が降りた。

辞令を受け取ると、指示に従い隣のビルのシステムクリーン課に配属され移動を命じられた。

「皆さんは、本日からこのシステムクリーン課に配属されました。
今、世の中の労働は完全管理できるようになっているのは皆さん学校で学んできたことでしょう。
そして、決められた労働時間も管理されています。しかしながら、その時間だけでは全ての仕事を処理することが難しい会社も一定数存在しています。
皆さんは、今日からこのシステムクリーン課で何をするかというと、そんな違法企業を監視し摘発、処分をするための業務を担っていただきます。」

「処分…」

「悪質な企業は、業務改善だけではどうにもなりません。それを見つけ処分するのが皆さんの仕事です。さぁ、皆さん頑張って働きましょう。」

通常の会社業務時間だけでは処理仕切れない仕事が今の時代提供されることはないはずだが、それが起きているということはなんらかのトラブルが起きているということなのかもしれない。しかし、それがバレてしまうと会社としての存続が難しくなり結果的にまた適正診断を受けて仕事をしなければならない。
そのため、隠れて仕事を継続していくことを選択する企業があるらしい。
その方法はどのような方法なのかはわからないが、なんらかの方法を使って仕事をしていないように偽っておく必要がある。
それをまず見つけるのが、僕たちの仕事。そして、それを見つけたら秘密裏に処分・処理をするということをらしい。

「皆さんには、労働特例が適用されています。」

僕たちには労働特例が適用されているというのはどういう意味なのだろうか?
仕事初日にその事実を知ることになる。
まぁ、ちょっと考えれば想像できることではあったが…。

「そういえば、俺たちってここに入職する前に、一人暮らしの場合はアパートを引き払って、実家で家族と暮らしているものは最低限の荷物をまとめ、全員がここの課が所有する寮に入寮することが義務になっていたけど、まだ寮を紹介してもらってないんだよな。どんなところだろうな。」
「確かに。教えてもらってないね。」

9時から勤務を始めて1時間の休憩をとって…もう8時間が経過しようとしていた。
「そろそろ終業の時間だね。」
しかし、待てど暮せど…終業にならない。どうゆうことだ?
「はい。皆さん、お疲れ様です。それでは、8時間が経過しましたので、このドリンクを飲んでください。」
全員が栄養ドリンクのようなものを渡された。
「これはなんですか?」
「はい。皆さんは朝説明したと思いますが、違法労働企業を見つけ摘発・処分するのが業務です。そのため労働特例が適用されていると説明しましたね。労働特例とは?と皆さん思われたと思います。皆さん、まず配布したドリンクを飲んでください。」

目の前にあるドリンクを全員が飲み干していった。そして、僕も。

「では説明をします。今飲んだドリンクは、超回復ドリンク ノンデストロイと言います。」
「ノンデストロイ」
「これを飲むことで、皆さんの体内に埋め込まれた管理チップがまずリセットされます。そして、皆さんの体は眠らなくても仕事を続けることができるようになります。」

「え?それって…」

「もうお分かりですね。皆さんは、不眠不休で仕事をすることができるんですよ。そう、あなたたちは、本来であればどこにも適正職業の見つからない不適合者で、この仕事がなければ "処分" されていたクズどもですから。では、そろそろ薬が効いてくる頃でしょう。仕事を再開してください。働けなくなったらいつでも処分できますからね。
摘発・処分するために休んでいる時間なんかねーんだよ。」

笑いながら去っていく背中を見ながら、頭の中がグルグル回って何も考えられなくなっていくのがわかった。

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