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日刊心聞

ピンポーン
ドアホンが鳴る。
『めんどくさい。いつもの新聞勧誘かなんかだな。居留守しよ。』
ピンポーン…
結構しつこいやつだ。
「なんですか?」
「あ、突然すみません。」
なんか怪しい雰囲気の男性が玄関に立っている。
「なんですか?」
「今日は、シンブンを購読してみませんか?というお誘いでして。」
「いえいえ、俺一人暮らしだし新聞なんてネットでニュースとか見れば間に合ってんるんで。じゃ」
ドアを閉めようとしたら、男性が
「私どものシンブンは通常のシンブンではないんですよ。」
そう言いながらチラッと表紙を見せた。

そこには "日刊心聞" と書かれていた。

「ん?シンブン?」
「はい。私どものシンブンは通常のニュースや地域の出来事を取り上げる、新聞とは違いまして、心の声を取り上げた記事を掲載させていただいております。」
「なんだ?訳わからないんですけど。そんなデタラメなもの、なおさら購読なんてしませんよ。」
「じゃあ、試しに一週間無料で配達しますので、それから考えてみませんか?」
なぜか断りきれずに、俺は一週間だけとりあえず購読してみることにした。

床の上に放り投げて、そのまま俺はそのまま存在を忘れていた。

次の日の朝、"ガコン" 郵便受けに何かが投函された音がした。
そこにはあの "日刊心聞"が入っていた。

「あぁ、忘れてた。」
心聞を手に取ると一面の話題に目が止まった。
"村下電気社長、利益を秘密裏に横流し指示"
「なんだこれ」

村下電気は大手電機メーカーだけど、なんだこのスクープ記事。
村下電気社長は、昨日専務とランチをしている際「利益をうまく裏口座に流して少し時間が経過したところで、山浦経済産業大臣に2千万いつもの口座に振り込んでくれ。」と伝えた。

「なんだか訳分からん。。。」
さらにパラパラみていたら、地方欄には俺の地域の記事や…あれ?俺の会社の記事もある。
「営業の小宮裕作(22)は、恋人の今井恭子(25)と口論になり、別れを切り出した。その時、小宮さんは『本気じゃないのに、なんで!!』と悔やんでいたという。一方、相手の今井さんは『結婚したいと思って、その話になると思っていたのにがっかり』と心の中で嘆いていた。」
なんだ?これお笑いネタか?

会社に出社した後、「おはよ〜」暗い声で挨拶してきたのは小宮だった。
「おお、おはよう。お前昨日彼女と別れたのか?」
「え?なんで?えぇ!会社じゃ、彼女いるって話は一度もしていませんよね。どこかでみていたんですか?」
「いやいや、偶然だよ。なんか、声でカマかけてみただけ。」
「そろそろ、彼女は結婚したかったんじゃないのか?なんか、ガッカリさせるようなことしたんじゃないの?」
「あ、そう言えば、昨日はなんか話があるってずっと言い出さないから、俺もイライラしちゃって。俺も、実は結婚考えていたんですけど、言い出すタイミングがなくて。」

2日後、小宮からプロポーズ成功したという報告がきた。

4日目の夜、ニュースを見ていたら村下電気の社長が、売上金流用の疑いと、不正献金の疑いで事情聴取を受けるという記事を読んだ。

『あれって本当だったんだ…』

慌てて、過去の記事を読みあさった。
これが全部本当だったらすごいネタだ。

一週間が経過して、またあの男が来た。
俺は、日刊心聞を購読することにした。

そして、俺は会社を辞めてフリーのライター 只野浩として活動することにした。
毎日、心聞のネタから記事に使えそうな話題をネタにして週刊誌に売った。
情報ネタは、当然真相なので仕事も増え原稿料も高く買い取ってくれる事になり、俺の生活はどんどん潤っていき、高級マンションに高級車、そして彼女もできた。

日刊心聞を契約した時、「情報を転載するのは構いませんが、全く同じ文章を掲載しないように。また、バレないように行動してくださいね。私たちのことが、世間に出た時は一生をかけて償ってもらいますので。」
そう言われていたが、全くそんなことは忘れていた。

最初は、気にして文章を変えていたが、だんだん面倒になって最初の約束も忘れていつしか、心聞の記事をそのまま転載して記事を売っていた。

ある日、地方記事に「フリーライターの只野氏は、取材を一切している雰囲気がなく、あいつは何処かからネタを拾っている。あいつは偽物だ。」という記事が掲載されていた。
俺は、いつも全国欄や芸能欄しか見ていなかったので、地方欄に掲載されていることすら気づかなかった。

季節は秋になろうとしていた日曜日、なんとなく久しぶりにワイドショーを見ていたら
「フリーライター 只野氏の真相!!」という話題が出てきた。
「え?俺のこと?」
「只野氏は、どうも家から一歩も出ないでゴシップ記事などを上げていて、毎朝、新聞配達が来ているらしい。その新聞を極秘に入手しました。」
そういえば、心聞が1日届かなかった日があって休刊日か何かかと思って、気にも止めてなかったし、ネタは一日届かないぐらいでは困らないほどあったので気にしていなかったが、TVに出ているのはその日の日刊心聞だった。

「こんな情報からネタを拾っているだけだったんです。この心聞ってなんなんでしょうかね…」
TVが盛り上がっているその時、インターホンがなった。

外にはあの男が立ってこっちを見つめていた。

「契約違反です。あなたは、今日から弊社の情報収集屋として死ぬまで働いてもらいます。」

不気味な笑みを浮かべる顔が見え、俺は暗闇の中に引き摺り込まれた…。

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