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なぜ carrot は radish より難しいか?

◎carrot:ニンジン は難しい

 学びを支えるためには、子どもたちが感じる難しさをよりよく理解することが肝要です。例えば carrot:ニンジン は radish:はつか大根 に比べて読むことがむずかしいようですが、それはなぜでしょうか? どちらも6文字で2音節、暮らしの中で見聞きするという点でも大差はないように思います。
 もちろん、両方とも初見ですらっと読む子もいます。英語を教えている方の多くも、そうだったのではないでしょうか? だとしたら carrot の難しさは、かえってわかりにくいかもしれません。読み進める前に、この2つの語をもう一度見比べてみてください。

car・rot:ニンジン     rad・ish:はつか大根

 ここでは一般的なルールに従って、carrot と radishを音節に分けて示してみました。こうすると radish も「ラッドイッシュ」などと読んでしまう子も出てきますが、それでもローマ字知識を生かせば、どうにか「ラディッシュ」という聞き覚えのあるカタカナ語に結びつけられそうです。しかし carrot はどうでしょう? carrot はまず ca で1つの音、続いて (r)rot と発音すべきところです。しかし最初の car を1つのかたまりと見てしまえば、carpet:カーペット と同じように「カーロット」と読んでしまう子が出てきます。carrot はどこで区切って読むかがわかりにくいことが、難しさの理由の1つとなっています。*¹

car・rot:ニンジン     car・pet:カーペット

 日本語でも、例を出してみたいと思います。この文の、どこにどのような難しさがひそんでいるでしょうか? 

ももたろうはおにがしまにいった。

 文の読みに慣れていない子は「も・も・た・ろ・う・は( ha )」と一文字ずつとぎれとぎれに読み、意味がつかめないかもしれません。外国語として日本語を学んでいる人でも「桃太郎」という昔ばなしを知らなければ、「桃太郎は / 鬼ヶ島に / 行った」を「もも / 太郎は / 鬼が / 島に / 行った」などと読んで、混乱するかもしれません。

 carrot も「おにがしま」も、単純に文字を音にするだけでは意味理解につながりにくく、読めているとは言いがたいようです。ではどうしたら、これらの語を正しく読み、意味理解にもつなげることができるでしょうか?

◎ さまざまな情報を生かして読む

 「おにがしまにいった」と書かれていても、その意味するところが異なれば読み方も微妙に違ってきます。「鬼が島に」の「が」と「鬼ヶ島」の「ヶ」では、音の高さも異なっています。「おにがしまに…」という短文を読むのも、そう簡単なことではありません。

鬼が / 島に / 行った
鬼ヶ島に / 行った。

 しかし日本語を母語とする人の多くは、その難しさを理解していません。その点では、日本の子どもたちに英語を教えるネィティブスピーカーにも同じことが言えるでしょう。こうしてみると、日本人英語教師に優先して求められるのは、同じ日本語を母語とする子どもたちが当面する困難をより良く理解することではないかとも思えます。

 さて、それではどうしたら carrot を正しく読めるでしょう? 簡単なのは、まず carrot の後ろの部分を指などで隠してca- だけを読ませ、次に -rrotを見せて読ませることです。音の切れ目を意識して読めるようにするという意味では、これも有効な方法の1つでしょう。しかしこれだけでは、根本的な解決策とは言えません。

 「ももたろうは…」を「桃太郎は鬼ヶ島に行った」と改めたことで読みやすくなったのは、漢字を用いることで場面や文脈が理解できたからです。*² 同じように carrot も、場面や文脈から得られる情報を生かして読めるようにします。

Every morning, she gives her horse some carrots.

上記のような文中なら、とりあえずcarrotが「カーロット」になっても、「いい感じ、悪くないよ」と前向きに評価しながら「彼女は馬に何をあげるんだろう?」などと質問することで「ニンジン」を導き出せれば、生徒は文字から得られた情報と合わせて、「カーロット?…あ、そうか! キャロットだ!」というようにして正しい読みにつなげられるかもしれません。

 まずは carrot を隠してしまって
「ここには何と書いてあるだろう? 馬には何をあげるのかな?」
「ニンジン?」
「じゃ、ニンジンは英語でなんて言うか知ってる?」とした後に、carrot を見せるのも方法です。

 数十年前の小中学生には、「キャロット」はなじみが薄かったかもしれません。しかし今どきの子どもたちは実に多くの外来語、それもより英語に近く発音される語にふれています。その知識を生かさない手はありません。
 「できる子なら、それもいいだろうけど…」という方がいるかもしれません。しかし「キャロット」を知らなくても、「カーロット」から「キャロット」につなげられなくても、それ自体は大した問題ではありません。より大切なことは、自分自身の力でさまざまな情報を統合し、総合的に判断する経験を積むことです。こうした経験は、自ら学び取ろうとする姿勢を養い、それがまたさらなる好循環を生み出します。

 面倒なことをしなくても、すぐに音声を聞いて確かめればいい… という意見もあるでしょう。しかしアクティブ・ラーニングという観点からも、先生に教えられる代わりに電子辞書やネット辞書に教えられていたのでは代り映えがしません。
 英語は、基本的に暗記するものではありません。「一語一訳」などの方法で単語を丸暗記する方法は、その言葉から生気を奪うだけでなく、子どもたちの試行錯誤と学びの権利を損なうものです。これからの教師に求められるのは「教え込むこと」ではなく、生徒の学びを潤滑なものとする「ファシリテーション」ではないでしょうか?

*¹ car:車 や carpet などの ar は1つになって「アァ」または「アー」のように発音されます。その点、例外とも取れる carrot については、ルールを知ることでかえって読みが難しくなってしまっています。
*² 例えば絵本の中の、ひらがなばかりで書かれた文を読む際には漢字交じりの文にはない難しさがあることも確認しておきましょう。


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