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モノローグでモノクロームな世界

第七部 第三章
二、
 意図的に世界を編集する。
違う文脈。

「ワームの目的は何ですか?世界を破壊することですか?」
「いいえ、それは違う。ただ私達は私達の世界を取り戻したいだけよ。
違う文脈で読むことで、言葉は違う意味を得る。彼らが造り上げたこの世界は確かに誰も傷つけない、優しい世界かもしれない。
でも、そのために、世界を塗り替えるのは間違っている。
明日が夢見れない世界なんて、本当に優しい世界なのかしら。」

『私、夢なんだ。』
『いつか目が覚めたら、世界中が沢山の色で溢れていて。』
『私達、皆、その中で笑っているの。』
『明日を夢見て。』

「マドカが言っていました。この世界に色を取り戻したいと。僕は彼女のその願いを叶えたいと思い、ここまでやって来ました。
彼女は僕の目の前で死んだ。手を伸ばせば届くその距離で。止められることも出来た筈、なのに、僕はそれをすることができなかった。
それどころか、僕は彼女の死によって、はじめて、失った事と大切な事を知ることができたんです。
 僕には彼女を弔う責任がある。だから、弔いの意味を込めて、彼女が僕に託したその願いを叶えようと。だけど、僕には未だにその方法がわからないままです。」
「あるわよ、方法。」
「え?」
「TheBeeを止めればいい。」
「そんな・・・・・・そんな事をしたら。」
「そう、人々は今度こそ本当に、皆、絶滅するかもしれない。あれはこの世界のシステムそのものだから。あのシステムがあるお陰で、私達は適度な環境を作り出し暮らしているのだから。システムが稼働し始めてから、今日まで一度もあのシステムは止まったことがない。止めたらどうなるのか、それは誰にも予測がつかない。」
「リトリ、貴方が話したように、TheBeeが壁の中の人々に対し、感情をコントロールするような信号を発していたのだとしても、TheBeeがこの世界の基盤であることは変わらない。その信号だけを止めることはできないんですか?」
「できないわ。」
「なんで、そう断言できるのですか?」
「システムを創った人間がそう設計したからよ。共感覚のシステムが止まると同時に、TheBeeは停止し、壁が崩れる。」
「・・・・・・貴方は知っているんですね。TheBeeを創った人間を。」
「えぇ。でも、貴方も会ったことがあるはずよ。」
「神代真飛・・・・・・ですか?」
「正解よ。神代真飛が創ったの、あのシステムを。
この世界に復讐するためにね。」
彼女のその言葉に驚きつつ、真飛の顔を脳裏に思い浮かべる。
いつも濃いサングラスをかけ、どこかすかしたように話す彼の姿を。
「復讐?」
「彼は、初期のナインヘルツの創設メンバーの一人。この世界を創りあげた一人だった。」
「じゃあ、あの人は、TheBeeにより人々が支配されることを知っていたと?」
「勿論よ。
それ故に、彼はこのワームも創りあげたのだから。私達にとって、ここは希望の場所だけれど、彼にとって、ここは罪滅ぼしの場所。」
神代真飛は、マドカを知っていた。
当然、彼の探し人がマドカでないことも事前に分かっていただろう。
「あの人は、僕に何を望んでいるのでしょうか?僕にここまで来させて。」
「さぁ、それは私にも分からないわ。彼はこちらからの全ての信号をシャットダウンしているから。聞きたいのなら、ダームシティに行く事ね。」
「ダームシティ、ですか?」
地下都市ダームシティ。この世界の経済の中心として、その名を馳せている以外はあまり知られていないその国は、たとえ一時的な入国ですら厳しい審査がある事で有名だった。
「えぇ。彼はそこの地下深くに今もいる。大丈夫、彼も貴方が来ることをきっと待っているから。」

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