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モノローグでモノクロームな世界    White NOise #5

 電車が辿りついたのは、だだっ広いだけが特徴の白昼の海岸だった。
白い泡は繰り返しを繰り返し、彼方へと去っていく。
永遠と永遠の狭間に、僕は立っていた。
彼女が持っていた、珊瑚色の簪を片手に。
 昼間の海岸には、僕の外に人影はない。
砂浜が描く牧歌的風景の中を、僕は独り影を伸ばしていく。
嘘と現実の狭間はどこだろうかと考えながら。

「影を売りませんか?」

唐突に降って来たその声に、僕は驚く風情を装いながら聲の方へ振り向いた。
そこには町で耳にした通りの人物が立っていた。
恐らく彼は、俯きながら歩いている僕の様子に、影を持て余し気味であることを見抜いたのだろう。
実際、僕は僕の影を持て余し気味だったのだから、間違いではないのだが。
「幾らでなら、買ってくれますか?」
まだ影を売る気は更々なかったのだが、このまま返答をしないのも気が引けて、僕は彼に問うた。
問われた男は顎の不精髭に手をやりつつ、少し思案した後、こう答えた。

「そうですね。私の瞳と交換に。」

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