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モノローグでモノクロームな世界

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2019年7月の記事一覧

モノローグでモノクロームな世界

モノローグでモノクロームな世界

第五部 第二章
三、
 サカイと国との境界線となる門を抜けると、一気に車内の温度が変化したのが分かった。エアコンをフル稼働させても、底からひんやりとした空気が立ち上がる。
副島達は防寒具を着てきたことに、心から感謝した。

 壁一枚隔てただけでこれ程までに気温が下がるのには、サカイに何度も訪れているが、一向に慣れない。普段、国内に居る者にとっては、一息毎に体の芯から凍り付くような冷気だけでも十分な

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第五部 第二章
二、
 「なんだ、てっきり、副島さんは元ワームの人かと思ってましたよ。あちらの内部の情報を知りたくて、上がスカウトしたのかと。」
「期待を裏切るようで悪いが、俺はブラックアウトした事はないよ。クリーンそのものだ。」
そう自分はクリーンそのものだ。
そう副島は自分に言い聞かせる。
そうでなければ、きっと彼は思い出してしまうだろう。
壁の外で見たあの光景を。
そして、祖父の論文に書かれ

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第五部 第二章
一、
 「・・・・・・噂で聞いたことがあるかもしれないが、俺はその昔、少しだけサカイに住んでいたことがあるんだ。」

そう切り出した副島は、部下に対しどこまで話し、どう繋ぎ合わせれば妙な誤解を与えないか、頭の中で話す内容を構成していく。
副島の出自は、十月国併設のサカイ、つまり、今、車を走らせているまさにその場所だった。
と言っても、彼自身には殆どサカイに居た頃の記憶はない。

 

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第五部 第一章
三、
 検閲官のみで構成される取締部隊が結成された背景には、九つの国が出来上がったばかりのある事件の影響が色濃くあった。
事件と言っても、未だにその原因も明確に解っていない為、それは事件と言っていいかは不明であるが、出来たばかりのこの世界にとって、それは大きな議論を齎したのもまた事実だった。
 
 衛生歴が始まって数年、最初の自殺者が出た。
その後も、まるで感染が広まっていくかのよ

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モノローグでモノクロームな世界

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第五部 第一章
二、
 ナインヘルツの本部から遠く離れた東方の一角、十月国にあるのが、ナインヘルツ東方支部だった。ここでは、主に十月国を始めとする東方の三国を管轄している。それぞれの国の境に設けられている検閲所からの通報を対処するのも、東方支部の役目の一つだった。

 こうした支部は、世界の東西南北に一つずつ設けられ、ナインヘルツ本部と共に社会システムの維持や国同士の調整を行っている。支部には、支

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