【イタリア発!ショートショート】13歳の悔し涙、勝つはずの試合では負けたけれど、友情は育まれている物語。
負けた。
俺は、負けた 。
3戦目も勝って、準決勝に進むはずだった。
悔しかった。
俺は、悔しかった。
頭がボーっとなって、一瞬、畳から起き上がれなかった。
泣いた。
俺は、泣いた。
礼をして畳を降りた途端、堪えていた涙が溢れた。
震えていた。
俺は、震えてた。
悔しくて、悔しくて。心が震えて、まるでポンプのように涙を押し出した。
知らなかった。
俺は、知らなかった。
悔しくて流す涙が止まらないことを、そして声なき怒りなんだってことを。
今日の試合はいつものとは違ったんだ。
柔道U15の第2リーグ、イタリア全国大会。
46kg級の出場者は41人。
勝った上位6人がローマで開催される第1リーグに参戦する。
1.5kgオーバーだった体重を、筋肉を落とさずに46kg以内に収めないとアウト。
体重測定は試合前日の夕方だったから、現地に試合の前日入りした。
今日までの減量のための食事は母さんに頼んでコントロールしてもらった。
「スポーツ栄養学」って本をよく読んでるから。
体重測定をクリアして臨んだ試合当日、1戦目、2戦目はわりと短時間で「一本」をとって勝ち抜いた。
3戦目も勝つはずだった。
対戦相手は、いつも試合で同じカテゴリーになるヤツだった。
「アイツにだったら、勝てる」
油断はできないけど、「勝ってやる」と思って臨んだ試合だった。
3分間で勝負は決まる。
試合開始50秒で「大外がり」で技ありをとって俺は優位にたった。とは言え、残り2分10秒は長い。
「指導」をひとつとった。でも、「このままいけば勝てる!」はずだった。
ところが、残り22秒のところで押さえ込まれた。
跳ね返そうとしても、動けない。
俺もアイツもエネルギーはもうそんなに残っていなかった。
なのに、アイツは凄い気迫で押さえ込んでくる。
とうとう最後まで跳ね返せず、アイツが「一本」をとって俺は負けた。
俺は、負けた 。
悔しかった、そして、泣いた。
震えていた。
初めて知った、悔しくて流す涙が止まらないことを、そして声なき怒りなんだってことを。
チームメイトと母さんが待つ観客席に戻ってからも、涙は流れ続けた。
マッテオとピエトロが励ましに来てくれて、ずっと俺の横で何か言っている。
「次の試合にも出場しているはずだったのに」
俺は試合会場に視線を向けながら、思った。
「ふんばれ、強くなるんだ」
ピエトロの父さんの言葉が背中のほうから聞こえた。
「がんばった!」
母さんが、言った。
膝の上に置いたままの俺の握りこぶしをそっと包みながら。
「おなかすいたでしょ、何食べる?サンドイッチ?」
母さんはちょっとだけ笑顔で、食べ物がたくさん詰め込まれている大きなカバンを開けて見せた。
差し出されたカバンからサンドイッチを取り出して、口に突っ込んだ。
だんだんと強張った体と心がほぐれていく。
アイツは次の試合で負けた。
しばらくして俺はアイツに連絡をしてみた。
試合でちょくちょく会っていたから、仲良くなってWhatsApp(日本のLINEにたいなもの)でつながっていた。
「お前さ、急にめちゃくちゃ強くなっててビビったよ。勝てないかもって思ったもんな。だから俺、最後の押さえ込みは必死だった。」
そういうことか。
強くなっててビビられて、それで負けたのか、俺。
ちょっと複雑な心境だけど、負けた理由が分かってスッキリした。
次の全国大会は2024年の春。
筋肉を増やして50kg級のカテゴリーで参戦する。
毎日の練習の前に高校生たちがやってるジムでの筋トレにも参加することにした。
予選で勝ち抜いて、次はローマ大会に絶対に行ってやる。
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< あとがき >
これは息子(13歳)になったつもりで母であるわたしが書いたノンフィクションの物語です。
2023年11月11日、息子は柔道の全国大会に出場しました。
家族みんなで応援して臨んだ試合でしたが、惜しくも3戦目で敗退。
敗退後、今までに見たことのない顔をして、彼は涙を流し続けました。
もらい泣きをぐっと堪えて、私は様子を見守りました。
「いい経験になった」という簡単な言葉では語れない、昨日の気持ちをショートショートという形でここに残したいと思います。
次回「母の視点で綴るノンフィクション物語」に続きます。
(つづく)
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