カラス①

お散歩コースの公園でカラスと。
少し離れた木に停まっている。あまり近付けないけど大丈夫かなと一瞬心配になるが、一回深呼吸したら聞こえてきた。

『最高じゃん』とカラス。
私も「最高だね」と答える。
晴れて綺麗な朝日が見えて、空気も澄んだ冬の朝だった。
私の目からは涙が出ていた。
あれ、もうつながった、と思った。

『気楽にやりなよ、意味なんて考えずにさ』
「あの男に言ってやってよ」と私。
『あんたに言えばあの男に伝わるだろ』
「まだそんなにひとつじゃないよ」
『俺たちとひとつになれるんだからもうなってるよ』
意味、というのは彼の口ぐせで、私は、そんなに意味なんて考えずラクになればいいのにと思っていた。彼は彼で私のことを、考え過ぎ、と言っていた。

公園の池には鴨がいて、エサを与えている人もいる。鴨はだまっててもエサをもらえるのにカラスにあげる人はいないんだよなあと思う。同じ鳥なのにと。
ふと母親のことを思い出す。
一人暮らしの母は家の周りに来る野良猫によくエサをやっている。あまり増えれば周りにも迷惑だしと私がいくら言っても聞かず、今は何も言わないことにしている。
でも野良猫からしたら母は愛のある人間なのかもしれなかった。

『母親と仲良くやりな』
「やってるよ」
私が何を言っても聞かないから言うのをやめただけだった。諦め、が私が母と接する時のキーワードかもしれなかった。

『あんたが今幸せなのは、母親やご先祖からのご加護があるおかげでもあるからな』
それはその通りであるに違いなかった。
だから私は母の幸せを願っていた。
たとえ私自身は母と心を通わせられなくても。

私は話題を変えた。
「ねえ、黒じゃない色だったらなあって思ったことある?」
『ないな』即答だった。
『黒であろうがピンクであろうが俺たちは俺たちだ。あんたはあんただ、何しようが、何を考えようが』
「何しようが、って何?」
『あの男とどうなろうが、どんなにろくでもないことを考えようが、あんたはあんただ』
魂は変わらないということなのかと思ったがよく分からなかった。
その時、別のカラスたちが青空をきって私の頭上を飛んでゆく。
『俺たちは羽がある。あんたたちは足がある。ただそれだけの違いだ』

『母親のことを腹の底から愛してやりな。そうすりゃあんたも満たされる』
家を出る前の瞑想で今朝考えていたのが、自分を愛する、満たすとはどういうことか、だった。
見透かされているかのように答えを教えてもらった。
難しいなと思った。でもだからこそ今の私が取り組むべきことなのだろうとも分かっていた。

朝日は相変わらず綺麗で、私はまた涙を流していた。さっきまではすれ違う人もいたのに、お話してる間は誰も通らなくて私にはありがたかった。ぜいたくな時間を与えてもらえた気がした。
もっとずっとこうしてカラスと朝日を見ていたかったけれど帰らないといけない時間だった。「また来る!ありがとう!」と言って帰る。
雪の上にカラスの足跡を見つける。かわいい足跡だった。

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