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映画 『メメント Memento』

(今回は 内容というよりも映画の見方についてのネタバレを含んでいます。ご注意ください)

『メメント』は 恐らく 二回以上見ることを想定して作られた映画だろうと思う。「難解な映画」ということで 評判のこの映画。それもそのはず 2時間弱の映画にして、最後の10分まで全貌が見えないのだ。
子どもの頃に夢中になった 点と点を順番通りに線でつないでいくと絵が完成する「点つなぎ」というゲームがあるが、この映画はずっとその点つなぎをしているような感じ。しかし、その方法が独特なのである。

例えば1から10の点をつないで 1枚の絵を完成させるとする。通常の点つなぎであれば 1から10の 順に 1→2→3→と線をつないでいくが、この映画の場合はそうはいかない。

主人公は 脳に傷を負ってしまってから、新しい記憶をもてなくなってしまった。今いる場所が どこなのか、何のために その作業をしていたのか、10分経てば忘れてしまう。大事なことは 全て ポラロイドカメラで撮影し、メモを残しておく。そして 自分の身体中に タトゥーを彫ることで、自分が「妻の復讐のために生きている」ということを忘れないようにしている。

この映画は カラーの映像とモノクロの映像が交互に登場する。
カラーの映像に関しては 主人公の記憶が続く限り進む。そして 主人公の記憶が途切れたところでモノクロの映像に切り替わる。モノクロの映像では 主に 主人公の病状について Sammy Jankisという人物の人生と合わせて語られていく。

この カラーとモノクロの仕組みが この映画を複雑にしている原因である。カラーの映像は 10→9→8と進んでいく。しかし モノクロの映像は 1→2→3と進んでいくのだ。それらの映像が交互に登場するということは つまり、

10(カラー)→1(モノクロ)→9(カラー)→2(モノクロ)→8(カラー)→3(モノクロ)→7(カラー)→4(モノクロ)→6(カラー)→5(モノクロ)(カラー)

という構造で話が進んでいくのである。さらに、5のパートはモノクロの映像とカラーの映像が途中で切り替わる仕掛けになっている。点つなぎの例で言うと 大きい数字から小さい数字へとつなぐ線と 小さい数字から大きい数字へとつなぐ線の二本を交互に引いていき 一番真ん中の数字で一つの絵につなげて絵を完成させるいう具合だ。

こうして 書いていても 非常にややこしい作りである。正直 一回目の鑑賞では ただただ頭が混乱している状態だが、二回目以降の鑑賞では その混乱がある程度解けている状態なので この映画のもっと細かな部分に気づくことができる。そういう意味で 二回以上見ることが想定されていると思う。

複雑なものを作り、それが理解されることというのはとても難しい。自分が作曲をする時にもすごく感じることだが、次の展開が想像されるようなものはできるだけ作りたくない、でも あまりにも突拍子がないものになってしまうと「面白い曲」というより 「変な曲」になってしまう。この「面白い」と「変」を見極めるのはとても難しい。作っている本人は 何度も何度もその曲を歌ったり 聴いたりしているうちに 次の展開が想像できるようになるため だんだん感覚が麻痺してきてどんどん「変」になっていってしまうのだ。
今回の『メメント』に関しては 一回目の鑑賞では「難解」だが 二回目以降の鑑賞では 意外と「わかりやすい」仕組みになっているため 「変」ではなく「面白い」と感じられるのだろう。

しかし、時系列を入れ替えただけで 物事はこんなに難しくなり得るのかと驚いた。もし、この記事と巡り合った方の中に 映画はまだ見ていないという方がいても安心して欲しい。それでも この映画は大いに楽しむことができるはずである。

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