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【エッセイ】願わくは、我に七難八苦を与え給へ

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祖父危篤の報を聞いてから駆けつけ、葬儀に出るまでの数日間を綴った話です。苦難の時代を生きた祖父の生涯と、夏の空に思いを寄せて書きました。
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2024年8月の記事一覧

【追想】亡き祖父に寄せて「願わくは、我に七難八苦を与え給へ」後日談

この日、東京の気温は摂氏三十七度にまで達した。ビルのガラスが空に浮かぶ太陽を増幅し、およそ命ある者の営みに適さない過酷な環境を作り上げる。今年も、茹だるような盛夏がやってきた。

祖父がこの世を去ってから、歳月は人を待たず、瞬く間に二年が経った。私はこの都会から逃げるようにして休暇を取り、朝から電車に乗って祖父の墓参りに向かった。

七月の終わりの街は静かだった。
平日の昼の電車は静まり返り、人も

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