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Daryl Hall来日公演に行ってきた

2023年11月23日、起床した私の目に飛び込んできたニュースがあった。

それはDaryl HallがJohn Oatesを訴えたというものだった。Hall & Oatesとして長年手を取り合ってきたはずの二人である。私はこのデュオのファンだし、てっきり二人はベストフレンドなのだろうと思っていたから驚いた。

訴訟の詳細については明らかになっていないが、どうやらビジネス上の契約と債務をめぐることらしい。さらにDaryl はJohnに対して「一時的接近禁止命令」を申請し、裁判所からこの命令が出されたというのだ。

人間同士だから何事も円満に行くはずがないことはわかる。だが、ファンは辛い。なぜなら今日11月23日はDaryl Hallの来日公演千秋楽当日だからだ。
よりに寄って公演当日にこんなニュースが報道されるかね…と思いながら身支度をした。
そういえば先日放送されたThe Best Hit USA(BS朝日)にリモート出演したDarylは確かこんなことを言っていた。

「Johnとは別々の道を歩むことにしたんだ」

つまりもうHall&Oatesはやらないということだ。この発言を聞いたときは結構ショックだった。2015年の二人の来日公演に行っておけば良かったと後悔した。それにもうDarylは77歳で次にいつ日本に来てくれるかわからない。

"それでも二人が生きている以上、Hall&Oatesは復活するかもしれない…"

頭の片隅に抱いていた淡い期待。この願いが叶う確率は限りなく0%に近づいてしまった。この訴訟沙汰の件を知った今、私はそれを悟ったのだった。

もうHall&Oatesを観ることはできないだろうし、Darylを観ることも今日が最後になるかもしれない。その覚悟で私は有明へ向かうことにした。

道中、パン屋さんで軽食を取っていると、店内BGMで「I Can't Go for That」が流れたのだ。
(タイトルの意味とは反対に)なんだか会場へ向かう私の背中が押された気分になりながら、しょっぱいサンドイッチをコーヒーで流し込み、国際展示場駅へと向かった。
(しょっぱかったのは涙のせいではなく、ハムのせい。)

有明にある東京ガーデンシアターに初めて足を踏み入れた。三階バルコニーの席だった。
Darylの出番の一つ前、Todd Rundgrenが始まる頃に会場に到着した私は、ステージと私の席の距離の近さに少し安堵した。


Daryl's House BandをバックにTodd Rundgrenのショーが始まった。
Toddはステージを動き回りながらパワフルに歌い上げていた。あまり詳しくない私だが、中でも"I Saw the Light"は最も輝きを放っているように感じられ、私の大好きな曲になった。

Toddの演奏が無事に終了した。

続いてDarylの番。DARYL'S HOUSE の文字が光り始め、背景には家の中ようなデザインがぼんやりと現れた。天井にはキラキラの電飾が輝き、左右にはキャンドル風の装飾が暖かいオレンジ色の光を放ちながらゆらめいていた。

一曲目は、渾身のソロヒット曲、"Dreamtime"だった。
Darylが歌い始めた。Daryl Hallの、あの歌声だった。

このとき、不覚にも私の目頭はどんどん熱くなってしまい、そしてちょっぴりしょっぱい味がした。
ここでしょっぱかったのは塩気の効いたハムを食べたからではない。涙が溢れ出てきたせいだった。
コンサートで泣くなんて初めての経験だった。
(文章にすると、途端に陳腐なエピソードである。)

自分がミーハーだから泣いているのか…?などと俯瞰から考えてみたりもしたが、とにかく涙が止まらなかった。

初めてDaryl Hallという人を観て生の歌声を聴いたから、というのも恐らく理由の一つだ。
でも、この"Dreamtime"の持つポジティブなパワーが妙に私の感情を刺激した。今朝知った訴訟のことが潜在意識にあったからか、このメロディを全身で浴びれば浴びるほど、切なさが込み上げてくるのだ。
Daryl Hallという一人のレジェンドが今この空間に居ることを意識すると、この人の送った人生に思いを馳せてしまうのだった。
(おい、若造がなにを生意気に思いを馳せてるんだ!という声が聞こえてきそうだ。)

その後も自身の最新アルバム「Before After」からの選曲、Hall&Oatesからの名曲の数々で会場の熱気は増していった。ここにJohnがいてくれたらな、という気持ちはもちろん何度も過ってしまったのだが。

書けばキリがないが、"Out of Touch"や"Sara Smile"等々、往年のヒット曲を聴いた時は、自分の夢が今一つずつ叶っているのだなと実感した。

そして、Daryl Hallという人は終始ゴキゲンで、気風のいいおじいさんという感じであった。

そしてアンコール。Toddが再びステージに登場した。
Hall&Oatesの"Wait for Me"、そしてToddの"Can't We Still Be Friends"ではコンサートが終わる寂しさを噛み締めた。

アンコール最後の曲は"Private Eyes"だった。もちろんこの時にはこちらも元気いっぱいであの手拍子に参戦!コンサートで私もこの手拍子を鳴らす日が訪れたということが嬉しかった。

あっという間に終演になった。張り切って手拍子をしたからか、溢れるドーパミンに反比例して、切なさはもうどこかへ消えていた。



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