空乃 莉々

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短編小説:サルビア

「誠くんのお母さんってどんな人?」 もうすぐ入籍予定でプロポーズ済みの彼女、愛美は何の抵抗もなく、スマートフォンの画面から僕へと目線を移し、そう言った。「顔合わせが初めましてなんてドキドキしちゃうよ」そう言って屈託のない笑顔を見せる愛美と、母の偽物の貼り付けた笑顔が重なる。「母は良い人だよ、愛美のこともきっと気にいると思う」おそらく嘘ではない言葉を並べるも、愛美は納得していない様子だった。「良い人って、曖昧すぎる表現だな。礼儀に厳しいとか、料理が上手とか、細かい情報とかエピソ

    • 忘却

      君にとっての僕は一体なんだったのだろう。 何も望まず、何も奪うことなく、ただ側にいた。 晴れ間が見えることはなく分厚い雲が覆う日も、前も見えず傘が溺れていきそうな雨の日も、ただ君だけを頼りに生きていた。 主役は自分だとばかり主張し続ける太陽よりも、頼りない弱々しい光を放つ月よりも、君が一番の僕の光だった。 もう一度、聞く。 僕にとっては光ならば、君にとって僕はなんだったのだろう。 その日も頼りない月を横目に、疲れて鉛のように重くなった足を持ち上げ、 一生懸命歩いていた。と思

    短編小説:サルビア