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小山昇『仕事ができる人の心得』

友人に勧められて読んでみた。
非常に実践的な書物だと感じた。

内容は、経営用語の定義と紹介さてはいるが、そうではなくて現場で日々起こる問題に対して、社員が取るべき(とってほしい)態度をかなり具体的に指し示したものだと思う。それを、日常会話で使う単語に落とし込むこむのは巧妙なやり方で、この用語集の勉強会を定期的に行っていれば、社員は日常生活でこれらの単語を聞く度にその行動指針を思い出し、その価値観を内面化して行くだろう。テレビ広告でクラシックミュージックを使われると、その曲を聞く度にその広告を思い出してしまう現象みたいなものだ。わたしは今でもポーランド民謡の「森へ行きましょう」を聞くと、大森屋の海苔のCMを思い出す。

各用語は、組織が価値観を共有するための論点になっているのではないかと思った。この論点が網羅されている点だけでも、この本には十分価値がある。各論点の結論(解説)も、簡潔かつ含蓄がある内容になっていた。これを読まなければいけない人たちの顔がたくさん浮かんだ。ただし、価値観を押し付けられている感じはかなりした。おそらく、拒否反応を示す人も多数いるだろうとは思う。用語集にも価値観が共有できる人を採用すべしと記載されていたので、そう言うことなのかもしれない。私的には、「男のロマン」だとかが書いてるのは相当キツい。

自分がこの書物を利用するなら、この本の冒頭にも書かれているのと同じように、組織の構成員と各用語についての勉強会を定期的に行うと思う。そして、これらの用語の裏側にある小山さんの価値観を十分に理解し、かつ実践した上で、少しずつカスタマイズして行くのが良いのではないかと思う。それぞれの用語は一見バラバラの要素に見えるが、小山昇さんという体系で繋がっているはずなので、安易に修正するのは危険だ。しかし、実践者である私は小山昇さんではないので、必ず齟齬は生じてくる。さらにいうと、外部環境が急激に変化し続ける昨今において、ここまで細かく行動規範を定めてしまえば、どこかで現実とズレが生じてしまうのは必然のように思う。従って、必ず修正を行い続けなければならない。

この本の良くないところを挙げると、タイトルがミスリードになっているところだ。これは「仕事ができる人の心得」ではない。この本が目指しているものは、「強い組織」の構築であって、「強い個人」を作ることではない。そもそも冒頭で、社内共通言語を作ろうと思って書いた本だと書かれているので、これが組織作りのために書かれたものであるのは間違いないと思う。だから、これを一人で読みふける(深読みする)のはあまり効果的とは思えない。この本は聖書(普遍的なもの)ではなく、水物だと思う。なぜなら、この本が実践的だからだ。実践的だということは、その内容が今現在の日本という特殊な環境にフィットしているということだ。従って、外部環境の急激な変化には耐えらないものであり、内容を吟味するよりも実際に試すのが正しい使い方のように思う。下手に一人で読んでると、自分と部下の間で同じ言葉の意味にズレが生じてしまうかもしれない。

成功者の独自の方法論が描かれた本の問題点として、書き手が自分が所有する経営資源や環境の特殊性に無自覚である点が挙げられる。本当にこの本に書いてある方法を実践するならば、小山さんとその会社のこともある程度把握した上で、それが自社の置かれている状況とマッチするかどうか考慮すべきだと思う。特に社長が個性的である場合は、それが原因でその方法論の再現性が低いということは大いにありうる。そして、個性的であるからこそ人の興味を引き、本まで出してしまうということも、さもありなんである。

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