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【シリーズ・摂食障害1】”街の心理士”が摂食障害の連載記事を始める理由

シリーズ・摂食障害1】”街の心理士”が連載記事の連載記事を始める理由
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

※長く勤めていた精神科病院を退職し、“街の心理士”へと華麗なる転身?を果たした「りらの中のひと」が、心理学やメンタルヘルス、日々の出来事などについて感じることを綴っています。

 突然ですが、これからしばらくの間、摂食障害とはどのような病気なのか、どのように対処・対応すればいいのか、当事者の方の思いや回復の道のり、などについての連載記事を書こうと思います。いささか大げさではありますが、その理由を記すとともに、“決意表明”をしたいと思います。

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1.はじめに


 皆さんは、「摂食障害」をご存じでしょうか。
 摂食障害は、心理社会的な理由(がんで胃を切除した、などの身体的な理由は含まない)から、“食べること”に関わる認知と行動が変化してしまう精神疾病群です。やせ(低体重)があるかどうかや、排出行為の有無などにより、「神経性やせ症」「神経性過食症」「過食性障害」などに分類されます。

2.心理士として経験したこと


 かつて私が勤めていた精神科病院は、摂食障害の患者様の診療が可能な、都内でも数少ない病院のひとつでした。摂食障害の診療は、一般の医療機関(精神科でも、内科・小児科などでも)では実に難しく、“きちんと”診られる医療機関は、本当に数少ないのです。私は、精神科医療に携わる心理士としては、数多くの摂食障害患者様やご家族の方々に接することができましたが、そのほとんどは、治療できる医療機関探しに疲れ果て、最後の最後にこの病院にたどり着く、といった経験をされていました。

 多くの患者様は、入院して治療を始められます。入院治療では、栄養療法や合併症治療などの身体的ケアや、環境調整(多くの場合は、休養をとり生活リズムを整える)、心理社会的治療(心理教育や認知行動療法、さまざまな集団療法)を行います。そして低体重だった患者様も、多くの方がそれなりに回復されて退院していかれます。

一方で、退院したあと、外来の治療で活用できる治療資源は、私が勤めていた病院でも(もちろん他の医療機関でも)、ごくごく限られていました。そのためか、退院してまもなく再発し、再入院を繰り返す患者様に、数多く出会いました。

 私は、病院では、精神科デイケア(外来患者様のリハビリテーション)の部署におりましたので、このような状況を見かね、退院した摂食障害患者様向けのグループワークを、デイケアの中で始めました(私の退職と同時に潰れてしまったのが、本当に残念)。この経験は、精神科の医療者や心理士にとって、割とユニークなもので、皆様と分かち合う価値があるものだと思っています。

3.正しい理解と対処を


 のちのちご説明しますが、患者様やご家族にとって、摂食障害を“正しく”理解することは、とても大切です。そこから治療と回復がスタートする、といってもいいくらいです。と同時に、摂食障害の患者様と関わるかもしれない(現に関わっている)医療者や心理士らにも、医学的に正しい理解を共有したいのです。もちろん、(これまで摂食障害と関わることのなかった)一般の方々にも。

 そして、どうしても付け加えておきたいのは、患者様自身の思いを“正しく”理解する大切さです。一般的に、摂食障害にまつわる心理を理解することは難しく、患者様は、理解されないことでさらに傷つき、孤立を深めます。「よくなりたいけれどよくなりたくない、よくなることが怖い」「当たり前に食事をとることができない自分は情けない」「自分のせいで病気になったのだから、悪い自分を罰したい」など、これまでに聴いてきた患者様の声を思い出しつつ、その声を医療や社会につないでいくことができるよう、発信していきたいと思います。

4.最後に


 摂食障害は、実に手ごわい病気です。身体面への悪影響も大きく、致死的な合併症を得てしまうことすらあります。ご家族や治療者は、患者様の気持ちを“正しく”理解できず、患者様の言動に振り回され疲弊していきます。病気の治療と回復は、当事者の方はもちろん、ご家族など身近な方々にとっても、医療者にとっても、辛く苦しい道のりになる場合が多いのです。

 それでも、摂食障害は、決して不治の病ではありません。むしろ、しっかりと回復することができる病気です。ただ、当事者や家族にも医療者にも、病気と治療についての“正しい”理解と対処が、必ず必要になります。医学的に正しい情報を、“街の心理士”となった私からも、根気強くお伝えしていこうと思います。

 連載はとても長くなると思いますが、よろしければ最後までお付き合いください。よろしくお願いいたします。

(おわり)

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