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どうして患者様に「直面化」しづらいのか

どうして患者様に「直面化」しづらいのか
「デイケアの中のひとが語る、精神科まわりのあれこれ」#43

永遠の5歳児: ねえねえ、この中で一番、患者様に対してはっきりとものが言える、ステキな大人って、誰?
解答者: それは私です!
永遠の5歳児: これを伝えないと治療が前に進まない、という、患者様の言動の“振り返り”を、「直面化」と言うわよね。でも、「直面化」って、ちょっとやりづらいと思わない?
解答者: そうね、遠慮しちゃうというか、ね。
永遠の5歳児: なんで?
解答者: なんで?それは、××××だから違いますか?
永遠の5歳児: …つまんねー奴だなー。
解答者: チ〇った!

ナレーション: どうして、患者様への「直面化」は、しづらいのか。
街の人の声: いやー、うちの亡くなった親父はさ、高血圧で肝臓が悪くて、晩年は塩分摂取を1日3gに制限されていたんだけれども、ある時、主治医に「ラーメン食べたい」って言ったのよ。そしたら主治医が激怒して、「どうしてもラーメン食べるのだったら、麺をお湯で洗って食べなさい!」って。さすがの親父も、それでラーメンは諦めたんだよね(笑)。
ナレーション: このお父様、勇気ありますね。でも、チ〇ちゃんは知っています。

永遠の5歳児: 患者様に「直面化」するのがやりづらいのは、契約の取り方が下手くそだから!

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 何らかの治療やケアを行う場合、治療者と患者様との間で、その治療やケアについての取り決め(治療契約)を結びます。治療やケアの進め方や内容、治療者と患者様の権利と責任、得られる効果と副作用、などについて共有するのです。その取り決めを互いに守っていくことで、治療の効果は最大化されていきます。

 その契約関係の中で、患者様の言動を振り返り、指摘することを「直面化」(起こっていることを“はっきりさせる”という面を強調して、「明確化」という場合もある)といいます。先ほどの「ラーメンは、お湯で洗って食べなさい」は、直面化の典型例ですね。

 精神科の治療やケアでも、症状や、症状に基づく言動を振り返るための「直面化」は、とても大切な行為です。でも、治療者・支援者は患者様に直面化するときに、やりづらさを感じることがあります。

 精神障がい当事者の就労支援を例に考えてみましょう。患者様(当事者の方)の“自己理解”を促すことは、支援内容としては必須(過去記事をご参照ください)といえます。

 デイケアをしばしば遅刻したり欠席したりしているにも関わらず、「自分はやる気さえ出せば、いつでも就職できるんだ」と公言する患者様に対して、「デイケアに遅刻や欠席を繰り返しているのであれば、安定して出勤できるとはみなされない」ことを指摘するのが「直面化」です。

 生活リズムと安定した出勤の大切さを、患者様が自分自身で「気づいていく」ことが大切なのは言うまでもありませんが、治療者からのフィードバック(直面化)も、その「気づき」のきっかけとなり、自己理解の深さと幅を広げてくれます。

 ただ、患者様にとってどんなに大切なことでも、耳が痛いことをいきなりズバッと言われれば、反応してしまうのが人情というもの。治療者はそのことを知っているがために、直面化しづらくなってしまうのです。

 ですから、治療契約の中で、治療者が患者様に対してフィードバック(直面化)することがあるのだ、その目的はこうなのだ、などと、あらかじめ取り決めておく必要があるのです。事前に言われていれば、患者様もスタッフからのフィードバックを受け入れやすくなります。

 大学の一般教養科目の「心理学」講義などで必出の、「ジョハリの窓」の図などで説明しておくのがよいでしょう。

22 ジョハリの窓

※「直面化」の難しさの理由には、諸説あります。

※「ラーメンを洗って食べる」云々のエピソードは、私(りらの中のひと)の父親についての、実話です。

(おわり)

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