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東大社研、中村尚史、玄田有史編 「<持ち場>の希望学 釜石と震災、もう一つの記憶」 (本のご紹介)

東大社研、中村尚史、玄田有史編 「<持ち場>の希望学 釜石と震災、もう一つの記憶」 (東京大学出版会 2014年)


「事件は会議室で起きているんじゃない、

現場で起きているんだ!」


 織田裕二扮する熱血刑事が、大事件を前に意思決定できない上層部に歯噛みして、放った一言(フジテレビ系列「踊る大捜査線」)。

 このシーンを借りて言えば、

「希望は、<持ち場>で起きているんだ!」


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 「希望」を社会学的に追究する、東大社研「希望学」シリーズにつながる一冊。東日本大震災前から、岩手県釜石市にフィールドワークに入っていた彼らが、震災からの復興への希望が生まれる土壌を、当事者への聞き取りから考察する。

 登場する当事者は、市役所職員、県職員、消防関係者から、地域活動のリーダーや持ち家を失った住民、支援に携わった地域の有力企業や北九州市関係者など多岐にわたる。冗長、というのではない、分厚いオーラル・ヒストリーが示されている。

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Hope is a Wish for Something to Come True by Action.

 希望とは、「何か something」「行動 action」によって「実現 come true」しようとする「想い wish」である。希望は「若さや学歴・健康」と関係し、「家族や友人とのつながり」との関連も見出される。何より、「挫折」が、現在の幸福感を弱める一方、希望を強める、という傾向にあるという。

 それでは、釜石という街で、人々はどのように、挫折を希望へとつなげてきたのか。ぜひ本書を当たり、一人ひとりの声に耳を傾けていただきたい。

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 本書のキーワードは「持ち場」である。持ち場とは、ただの居場所ではなく、そこに主体的に関わり役割を担う「特別な場」である。

 要点を、私自身の言葉でメモしておく。

・そこが持ち場となるのは、必然である場合もあり、偶然である場合もある。
・そこが必然的に持ち場となる時、その必然性は、それまでの社会的なつながりから生じ、拡大する。
・そこには、「想い」を持たざるを得ず、「行動」せざるを得ない状況が存在する。その状況は、「挫折」と呼ぶことができるものを含む。
・「せざるを得ない」状況であるにも関わらず、持ち場の人間は、そこに主体的に関わっていく。
・挫折→持ち場における思いと行動の賦活→希望の生成→思いと行動の強化(循環)というプロセスが垣間見える。

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 間もなく、東日本大震災発災から、丸11年。来るべき“次の大災害”で、私たちが「持ち場」で踏ん張り、希望へとつなげられるように。

 繰り返しますが、多くの人に、読んでいただきたい一冊です。難しさは、ありません。

(おわり)

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