見出し画像

精神障がい当事者の認知の特徴と対応@はみだし「りらの中のひと」

 さまざまな精神疾患の症状のあり方には、私たちの精神機能のひとつ、「認知」が大きく影響していると考えられています。

 「認知 cognition」とは、外界の情報を取り入れ、処理し、行動として表出する一連の過程を指します。

 認知のシステムは、ヒトという種に共通の基盤を有していると同時に、さまざまな面で個人差を有しています。

1.私たちに共通の認知的基盤と個人差

 私たちの皮膚は、温冷や触覚・痛覚などを感じる感覚器の役割を持っています。感覚や知覚は、私たちすべてに共通の、情報の入力に係る認知機能のひとつです。

 針先で皮膚を押すと、触れられた感じや痛みを感じます(触覚・痛覚)。二本の針で皮膚を押すと、2か所でそれを感じるのですが、針先を限りなく近づけていくと、ある時点で1か所としか感じられなくなります。そして、この時の2本の針先の距離には個人差があり、コンマ何ミリまで区別できる人も、もっと距離があっても1か所としか感じられない人もいます(心理学では「触覚二点弁別閾」などと言ったりします)。

 さて、ここからが本題です。このように、私たちの認知機能には、個人差があるのですが、精神疾患・障がいをもつ方によく見られる、認知的特徴がある、というのです。そのいくつかをご紹介します。

2.原因帰属の偏り

 私たちが情報を受け取り処理するとき、その情報の原因についての意味づけに、個人差があります。そして、精神疾患をもつ方には、その意味づけの仕方に一定の傾向がみられる、というのです。

 例えば、居酒屋でアルバイトをしていて、流しで皿を洗っていてその皿を割ってしまったとします。洗剤でぬるっとしているお皿ですから、手が滑って割ってしまうこともあるでしょう。この時、うつ症状がある人は、その原因を過度に自分(の不注意など)に意味づけし、自分を責める傾向がある、とされます。

3.「結論への飛躍」

 私たちが何かの判断を下す時、その判断の根拠となるいくつかの仮説を慎重に検討し、結論を出すはずです。しかし、妄想のある人は、少ない証拠で結論を導き、その結論に固執しやすい傾向がある、とされます。この傾向のことを「結論への飛躍」といいます。

 居酒屋のアルバイトでお皿を割ってしまった、という例えでは、「店長が自分にぶっきらぼうだった」「店長が私を名指しして、皿を洗うように言った」という事実のみで、「店長が自分に嫌がらせをしたのに違いない」と思い込んでしまう、というのが「結論への飛躍」です。

4.発散的思考が苦手

 少ない証拠で結論に飛躍してしまう時、そもそもその証拠について複数の仮説を思いつくことが必要になります。ある課題について、複数の概念を導き出すことができる思考パターンを「発散的思考」というのですが、精神疾患(統合失調症など)を持つ方の一部に、この発散的思考が苦手である、という方がいるとされます。

 精神保健福祉の専門家であれば、精神障がい当事者の社会生活スキルを高めるために「生活技能訓練 SST」を用いることを知っていると思います。訓練場面では、他の参加者に、より適応的な行動パターンのヒントをもらうことができるのですが、いざ実生活の中では、自分の取るべき行動(の可能性)を自分自身でいくつかあげ、検討しなければなりません。訓練場面では上手に取り組めても、実生活ではその成果を充分に活かせない方がいらっしゃるのは、発散的思考の問題が関与している可能性があります。

 精神疾患をもつ方によく見られる認知的特徴の傾向は、その他に「心の理論」や「社会的知覚(表情知覚)」の偏りなどが指摘されます。

5.どうしたらいいのか

 このような認知的特徴が認められるとき、当事者の方はどのように対処したらいいのでしょうか。支援者はどのように支援すればいいのでしょうか。

 精神疾患を持つ方の認知的特徴を変えていく訓練プログラムが考案されています。もっとも有名なものは「メタ認知トレーニング MCT」でしょう(自分の認知について認知する、から「メタ認知」)。その詳細を説明することは省きますが、MCTで最も強調されていることは、「自分の認知的特徴をよく理解すること」と「時間をかけ、丁寧に判断すること」です。支援者も、この点に充分留意するとよいでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?