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【シリーズ摂食障害Ⅱ・#11】 自己疎外と対人不信、安心感の持てなさ

【シリーズ摂食障害Ⅱ・#11】 自己疎外と対人不信、安心感の持てなさ
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害への理解を深めていく連載・シーズンⅡでは、摂食障害と関連する心理面の特徴について、理解を深めています。今回は、EDI(質問紙)にも取り上げられていた、「自己疎外」「対人不信」「対人関係での安心感の乏しさ」について触れたいと思います。

1.「自己疎外」とは何か


 もともと哲学の世界で用いられていた「自己疎外」という言葉を、心理学的に説明することは、やや困難です。

 「疎外」はalienationの訳ですが、alienとは「異邦人」のことです。「疎外感」とは、自分が異邦人のように他者とは異なった存在に感じてしまう、違和感を感じてしまう、孤独を感じてしまう、という感覚を表すものです。自分で自分を“仲間外れ”にしてしまう、自分で自分の味方ができない、自分は無価値である、というニュアンスをも含むと思います。実際に摂食障害当事者の方々はしばしば、「(普通に食べる、という皆が当たり前にしていることができない)私は皆と同じではない」と仰います。

2.「自己疎外」と「対人不信」「安心感の乏しさ」


 自己疎外と対人不信は、一つの心性の裏表のように思われます。自分で自分の味方ができない、疎外感を感じている、ということは、容易に、自分は他者からも疎外されている、という感覚につながりうるのです。「理想の体型でない自分は、誰にも相手にされないに違いない」といった思考を持ちやすい、ということです。

 自己疎外と対人不信は、摂食障害当事者の方の安心感を損ないます。安心感の乏しさは、より極端で偏った対処(もっと痩せれば称賛されるかもと考え、より激しいダイエットにのめり込むなど)を引き起こすかも知れませんし、極端で偏った対処はしばしば失敗しますから、そのことがますます安心感を損ないかねません。そんな悪循環の状態が予想されます。

3.孤独な自己対処


 自己や他者への疎外感を募らせている状態だと、他者に助けを求めることが難しくなることが予想されます。摂食障害の症状が、生活ストレスの偏った対処になっている場合(職場のストレスを“むちゃ食い”で紛らわせているなど)でも、摂食障害の症状そのものがストレスになっている場合でも、摂食障害に基づく行動(拒食や排出行為、過食など)はほとんどの場合、孤独な状態で行われます。

 小林桜児という精神科医は、この状態を、依存症者の心理になぞらえ、「他者に頼らず、頼れず、孤独にモノやコトで対処しようとする自己治療」であって、本質は「人を信じられない病(信頼障害)である」と述べています。

参考文献
小林桜児 2016 人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション 日本評論社

(おわり)

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