見出し画像

【シリーズ摂食障害Ⅲ・#21】 事例からみる、摂食障害当事者の妊娠

【シリーズ摂食障害Ⅲ・#21】 事例からみる、摂食障害当事者の妊娠
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 摂食障害についての理解を、当事者の方や周囲の方とともに深めていく連載を続けています。このシリーズでは引き続き、「摂食障害と妊娠・出産と育児」というテーマを扱っています。過去記事はマガジンでご覧ください。

 ただいま、摂食障害当事者の育児問題について複数事例から考察した論文(岡本、三宅 2012 以下「本研究」)を紹介していますが、その中で取り上げられている、要支援となる(当事者の方が体験する)出来事を、先行研究の知見とともにみていきます。

※記事公開からおよそ1週間で、以下を有料とさせていただきます。あしからずご了承ください。

3.本研究において、妊娠期にみられた問題と支援


 妊娠中から不安定となった3例では、全てのケースで、妊娠中の身体変化への反応を示したとしました。つわりの時期には「吐くのも仕方がない」と考える一方で、その後の体重増加への嫌悪感や妊娠への後悔を訴え、負の対児感情や自責的な自己認知をもつケースが見られました。出産後にも体重や母乳育児へのこだわりがみられ、育児への強迫性が増したとしました。

 援助としては、妊娠中のこだわりや不安への説明を丁寧に行い、話しすぎにより感情がエスカレートしないよう留意しつつ、負の対児感情や自責感を安心して話せるよう保証した、としました。

4.先行研究に基づく考察


 摂食障害女性が、妊娠中の体重増加・体形変化に否定的感情を抱くことは、先行研究でも明らかになっています。妊娠への拒否感や現実的受容の困難が潜んでいるケースもあると推測され、妊娠初期から当事者の心理に配慮した介入の必要性を判断することが大切としました。ケア(診療)場面では、身体変化をポジティブに受け止める支援の必要性と、子育て経験者のグループなどへの参加を通した母親アイデンティティ形成への支援の必要性を指摘しています。

 先行研究では、体重や体形にこだわる者ほど母乳育児を選択しない傾向が見られたとされますが、本研究では逆に、産後の体重減少を期待し母乳育児を選択するケースがみられました。本研究では触れられていませんが、育児において母乳育児を推奨する積極的な根拠はない(様々な事情を勘案し、当事者が選択してよい)とされることに留意が必要でしょう。

5.補足


 本研究で述べられている様々な問題は、摂食障害当事者に“極端な形で”現れるにせよ、その不安や葛藤は多くの女性に共通するものと考えられます。妊娠中から活用できる、地域保健における様々なサポートなどを、摂食障害当事者も利活用できるとよいように思います。

引用文献
岡本百合、三宅典恵 2012 摂食障害の育児問題と援助 育児問題をかかえた摂食障害症例をもとに 精神医学54(7) pp.713-720.

(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?