【精神科病院の不祥事・その12】私見・暴力の文化はどのように形作られ維持されるのか
【精神科病院の不祥事・その12】私見・暴力の文化はどのように形作られ維持されるのか
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」
東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。
精神科病院での、スタッフによる患者様への暴力事件に関して、これまでに、「患者様の紹介の仕方において、紹介元が紹介先の臨床に関与する仕組みを作ることで、医療の透明性・治療性を高める」こと、そして「患者様の不穏や脱抑制を、医療的に適切に対処する力量を、地道に高めていく」ことを、提案してきました。
これらの提案は、あくまで“性善説”に基づくもので、医療機関や医療者が自らの襟を正し、安全安心な医療の確立に取り組もうとする手掛かりとして提示したものです。
一方で、報道された滝山病院の実情を鑑みると、スタッフの悪意や、トップの無責任さなどを否定することはできず、悪意や無責任を現実化させない取り組みが必要であろうことを認めざるを得ません。ここからは、ある種の“性悪説”に基づく対応を検討したいと思います。
1.組織の腐り方-はらわたから腐るか、頭から腐るか
組織が腐っていく時の経路は、「現場の腐敗が組織全体を蝕んでいく(はらわたから腐る)」ものと、「トップの腐敗が現場を飲み込んでいく(頭から腐る)」ものと、二通りが考えられます。実際には、両方のベクトルが混然一体に混ざり合い、ある種の“風土”や“文化”を形作るに至っているものと思います。滝山病院においても、病院長の“経歴”について報じられています(詳細は省略)。
2.現場の腐敗を食い止めるには
私はかつて、精神科病院の中間管理職を勤めておりました。当然、労務管理や臨床管理に、一定の裁量と責任があったので、「現場を腐敗させない」ことに心を砕いていたつもりです。
残念ながら、医療者であるという理由だけで、その人に高邁な人格を期待することはできず、“腐敗の芽”を有する医療者に時折出会います。
「段ボール箱のかびた蜜柑」を思い出していただけるとよいかと思います。かびた蜜柑をそのまま放置しておくと、そのうち箱の蜜柑全てがかびてしまうものです。腐敗は放っておくと広がってしまうのです。
蜜柑のかびは、早めに取り除いてあげる必要があります。私自身の体験では、病院在職中に、他部署の同僚を嘲笑する言動をするスタッフを、けっこう厳しく叱責したことがあります。これは、スタッフへの嘲笑を見逃せば、遠からずスタッフは、患者様を嘲笑することになりかねないからです。“腐敗の芽”に気づき、早めに摘んでしまうことが大切ですが、これは管理職でなくとも、心ある現場のスタッフ誰もができることです。
箱の蜜柑と異なり、医療者は互いに関係を持つなかで、知らず知らずかびを広げてしまう場合もあります。かびを広げないためには、適度なタイミングでのスタッフの「異動」があるといいのではないかと考えます。例えば、スタッフが暴力的な対応を憶えてしまいつつある部署に、他部署からスタッフが異動して“腐敗の芽”に気づき、フィードバックをもらえることが、その芽を摘み、修正し抑止するきっかけと力になるのです。
3.非常勤スタッフの存在の功罪
滝山病院をめぐる報道では、事件の背景に、非常勤スタッフの多さを指摘する意見があったように思います。
ご多分に漏れず医療機関でも、業務の一部を非常勤すなわちパート・アルバイトの(あるいは派遣の)スタッフに頼らざるを得ない実情があります。それは、専門職の絶対数が足りない(特に看護師)ことや、医療経済面のメリットなどによるものです。
ただ、異動もなく決まった常勤スタッフが長期間仕切り続ける現場は、知らず知らず空気がよどみかびが生じやすいとも考えられます。そこに時折出入りする非常勤スタッフが、外の“新鮮な”風を持ち込むことが、知らず知らずのかびの蔓延を防いでくれる場合もあると思うのです。非常勤スタッフの存在を、過度に問題視する必要はないように思います。
一方で、非常勤スタッフが多いことの最大のデメリットは、申し送りと情報共有、業務の引継ぎと分担が極端に難しくなる、ということでしょう。スタッフが一堂に会しての申し送りができず、情報が適切に引き継げなくなると、業務の抱え込みが起きます。スタッフの誰かが暴力的に振舞い始めても、周囲がそれに気づかず、気づいても(自分のことで手一杯で)介入するいとまがなく、情報がないためにどうしたらいいのかも分からなくなり、事態の悪化を食い止めることが難しくなるのです。
非常勤スタッフを排除していくことは現実的ではないので、申し送りや引継ぎの方法、タイミングを工夫していくほかないでしょう。電子カルテや各種グループウェア、デジタルデバイスの活用なども選択肢になると思います。
(つづく)