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【精神科病院の不祥事・その14(最終回)】医療の質を確認するための仕組み

【精神科病院の不祥事・その14(最終回)】医療の質を確認するための仕組み
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 東京都八王子市・滝山病院における暴行・虐待事件や不祥事にまつわることを、連載しています(タイトルに【精神科病院の不祥事】とつけています)。

 暴力を許容ないしは推奨しさえする、組織の“風土”や“文化”を根絶し、合理的な運営へと軌道修正させることができるのか、考えています。前回は、“中小企業”たる医療機関の抱える、組織運営や内部管理の脆弱性を考えましたが、今回は、大きなレベル、行政の対応について考えます。ただ、行政の問題は、一臨床家にとっては茫漠として手が付けにくい話題ではあるので、網羅的に検討はできていないことを、悪しからずご了解ください。

9.問題への行政の関与-特に“監査”をめぐって


 滝山病院での不祥事が発覚し、行政(ここでは東京都)が、医療法・精神保健福祉法に基づく臨時の監査を実施した、と少し前に報じられました。

 一般に精神科医療機関に対する監査には、「医療法」「精神保健福祉法」「(各地方厚生局が行う)適時調査」の三種があり、それらに加えて、生活保護法指定の医療機関であれば「生活保護法」の、心神喪失者等医療観察法指定医療機関であれば「医療観察法」の監査が実施されます。これらはそれぞれ役割が異なり、「医療法」は医療としての基本的なスペック(施設や医療職、医療機器や医療組織・各種規定類の整備状況など)を、「精神保健福祉法」は患者様への処遇を、「適時調査」は診療報酬の適切な取り扱いを確認するものです。

 「医療法」「精神保健福祉法」の監査は、概ね毎年行われるものです(適時調査は、過去に大きな指摘がなされていなければ、数年に一度程度の頻度)。

 精神科医療は永らく、時に“隔離収容”などとも呼ばれる、長期入院での処遇を主とした医療でした。ところが近年は、救急・急性期医療への誘導や、薬物療法の進歩などにより、患者様の入院期間は短縮する傾向にあります(私が勤めていた精神科病院では、全患者様の平均在院期間は概ね2か月弱でした)。患者様の入退院が多く(回転が良く)なっている昨今、患者様への処遇を丁寧に確認しようと思ったら、年に一度の監査(精神保健福祉法)では、頻度が足りなくなっているのかもしれません。一度のボリウム(担当者の人数や実施時間、一度に確認する内容など)を下げてでも、もう少し頻回に行うことを試行してみるとよいように思います。

10.医療の質を把握し公表する必要性


 行政の監査は、法的に最低限の基準を充足(違法・脱法的な取り扱いがないか)していることを確認するものです。それとは別に、安全・安心な“医療の質”を評価し、積極的に公表する取り組みがなされてもよいかもしれません。

 実はすでに、医療の質を評価し認定する仕組みは、(公財)日本医療機能評価機構「病院機能評価」として実施されています。受審は任意で、評価基準を充足されたと評価された医療機関には、認定のバッジが交付されます(病院の玄関などに掲出されていることが多い)。ちなみに私は、当時在籍していた病院が受審を考え準備していた時の担当者の一人になっていたので、病院機能評価については一般の医療者より多少知識と経験があります。

 病院機能評価は、医療機関の機能別に複数の評価メニューがあり、その中に「精神科医療機関向け」評価メニューも用意されています。

 ただ、病院機能評価は、認定されたかされないか(すなわちバッジの有無)だけが公表されるので、「安全安心な医療が、具体的にどのように提供されているか」という個別の評価内容について、医療機関の個性をうかがい知ることはできません。可能であれば、「安全安心の医療の提供」など、いくつかの下位項目ごとに、評価の内容を星の数などで明示されるようになっているとよいのではないでしょうか。また、病院機能評価の評価項目は、やむを得ないとはいえ外形的なものに偏っている(何々のマニュアルは整備されているか等)印象なので、医療の質を適切に評価するためには、さらなる“工夫”が必要でしょう。

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 これまで、十数回にわたって、滝山病院での患者様への暴行事件について深堀してきました。滝山病院の抱える特殊な事情はあったにせよ、精神科医療や医療の仕組みそのもの、ひいては一人ひとりの医療者や私たち市民も関わりを持つ、「他人事」にしてはならない問題だと考え、できる限り具体的な方策を提示してきたつもりです。

 もちろん内容や論理展開に至らぬ点が多々あったように思いますし、触れられていない重要なポイントも残されているとは思います。この問題についての私の連載は、この記事をもっていったん終了とさせていただきますが、ここから先は、お読みくださり問題を分かち合って下さったお一人おひとりの「宿題」でもあります。遠からず皆様と、改めて意見交換させていただき、よりよい精神科医療を一緒に考えていければと考えております。長くこの問題を「忘れずにいる」ことが何より大切です

 ここまで永らくお付き合い下さり、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

(おわり)

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