【本のご紹介】 渡辺弥生、小泉令三編著 「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」
渡辺弥生、小泉令三編著 「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL) 非認知能力を育てる教育フレームワーク」 (福村出版 2022年)
教育現場へのSEL導入と展開について概説した実践者(教育関係者など)向け教科書です。
子どもの学力向上にとって、知能や学力と最適化された教育が大切なのはもちろんなのですが、学習に向かう態度や感情を育てることの重要性も指摘されます。また高度に複雑化した社会において善き市民として生活していくための基盤となる力を育むことが教育に求められるようになっています。この教育へのニーズの変化に対して新たな取り組みの枠組みとして注目されているのが、非認知能力であり、ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)であります。
本書では、非認知能力の構造やSELの構成と、実践に当たって大切にするべきことを、順に分かりやすく解説していきます。SEL導入の実例やプログラム例も豊富です。
SELはあくまで「枠組み」なのであって、実践される内容は、現場ごとの事情に合わせて具体的に焦点化されたものでなければなりません。そのためには現場のニーズに関する「自己理解」とそのためのアセスメントが大切なのですが、多忙な現場ではそのことにリソースを割くこと自体が難しいのが現状です。だからこそ、SELの枠組みを参照しつつ、無理なくエッセンスを取り入れていく柔軟性が大切になるでしょう。
私は精神障がい当事者の就労支援のお手伝いを細々としていますが、職業訓練(就労移行支援事業所などでの)を、特定のニーズを持つ成人への社会教育ととらえれば、SELはそこでの支援の工夫につながりうると思います。今しばらく学びを深めていきたいと思います。
一般の方向けの書籍ではありませんが、教育や心理学に親しんでいる方にとっては、読みごたえがあるものと思います。
(おわり)