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たとえ世界線の向こう側だとしても。

彼女のことは、とあるSNSでよく知っていた。 

自分の小説の本を手作業で作り上げていく工程が、日々詳細に記録されている。その様子は上質な洋菓子を一つずつ箱に並べていくように繊細で、その本は言葉ひとつひとつが宝物だというように丁寧に編み込まれていた。

何度目かの春になり、私はいつものようにメタセコイア並木を抜けた公園のベンチで本を読んでいた。夕方になるとよく顔を合わせた彼女は、もうここにはいない。


花びらがひとひら、本のページに舞い降りる。私はパタっと花びらごとページを閉じると、バッグから桜のモチーフで彩られた冊子を取り出した。

彼女はかけがえのない人と出会い、新しい街へ引っ越した。小説も続けていて時折手作りの本を送ってくれる。彼女の母が手掛けているという装丁はセンスも良く、季節ごとに送られてくる冊子を包装紙から取り出す瞬間は何よりの楽しみだ。

まだ真新しい本の表紙には、はらりと舞い散る花びらの下に、ひとり佇む女性。彼女の足元には真っ白い猫がじゃれついている。



顔を上げると、桜の木の隙間から青空がのぞいている。またひとひら花びらが散り、ちょうど彼女のイラストに重なり落ちた。心地よい風が、木漏れ日を通り過ぎていく。

今回は、彼女の元に1匹の猫がやってくる話だ。そしてこれは本当の話。去年の春、私の近所で生まれた5匹の子猫たち。私は真っ先に、いつか猫を飼いたいといっていた彼女を思い出した。急な話に戸惑いつつも、彼女は彼とともに猫を飼うことに決めた。


猫と人にも相性がある。

彼女にピタリとくっついて離れないその小さな背中を見て、この子はあなたを選んだのだ、といったとき、彼女がほんのり涙ぐんでいたのを覚えている。時折どこか寂しそうだった彼女は、もう決してひとりではない。


やんちゃな子猫と彼女の微笑ましいお話を、私はお守りのようにいつもバッグに入れていた。季節が変われば、新たな装丁を施された新しいストーリーとともに旅に出る。

私たちの世界線はズレてしまったけど、こうしていつでも会うことができる。私はきっと、あなたを忘れないだろう。


そうして私は、彼女から聞いたいくつかの不思議な話をまるっと小説にして、本にして彼女に送ろうと思う。これは、私たちの対話だ。スマホがあれば一瞬で繋がれる今、私たちのやりとりは決して普通ではないかもしれない。だけど、忘れてしまっている何かを思い出させてくれるような、見えない糸を丁寧に編み込んでいくような、そんな時間を大切に生きていたいんだ。


メタセコイアの生い茂った木々の隙間から柔らかな夕陽がこぼれ落ち始める。私は花びらを本に挟んでバッグに仕舞うとその場を後にした。薄ピンク色の夕焼けを追いかけるように、細くしなやかな三日月が空に昇っていた。







⬇️この話はxuさんに書いて頂いた私のストーリーの続編です。



xuさんのバレンタイン小説から皆さんお返し小説書いてたので、私も真似してみました。世界観が決まってると書きやすくて楽しい🤗

xuさんへ、少し早いホワイトデーに💝お時間ある時に良かったら読んでみてくださいね✨




⬇️望月みやさんからのサイドストーリー


⬇️ひだまりさんからのサイドストーリー


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