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てのひら

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掌編小説集。
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2016年3月の記事一覧

時計のない街

 目覚めた時、何時なのか分からなかった。昼なのか夜なのか、遮光カーテンを揺らす風が生温かくて、僕は微睡のなかに溶けていた。憶えていることといえば、昨日の朝に酷い寝坊をして、会社に二時間遅刻し、上司の嫌味を一日中聞かされる羽目になったこと。山のような残業を片付け、最終列車に滑り込んで、近所の飲み屋でやけ酒を仰いだこと。そこから先の記憶が無い。
 眩暈とともに起き上がり、カーテンを開けた。空には雲一つ

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