マガジンのカバー画像

てのひら

9
掌編小説集。
運営しているクリエイター

2016年1月の記事一覧

静寂

 時計の音が、永遠のような一瞬を積み重ねていく。確実に、人生は消費され続ける。そのことを忘れるため、高校生の僕は、常に耳を塞いでいた。両耳からだらしなく垂れた黒いコードはある点で結ばれ、そのままターコイズ・ブルーの四角い機器につながる。ボタンを押せば千種類もの世界が流れ出す。音楽は僕の生きる世界そのものだった。
 だから、ポータブル・オーディオプレーヤーを落としたあの日、僕の世界はそこなわれてしま

もっとみる