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てのひら

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掌編小説集。
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2015年8月の記事一覧

 その街の片隅には小さな廃墟があって、崩れ落ちそうなコンクリートの壁に囲まれた奇妙な空間は、ギリシアの遺跡を思わせる美しさであった。かつてそこにどんな建物が建っていたのか人々は憶えていない。今はたびたび旅芸人がやってきては、その灰色の空間を舞台として利用していた。少年は、毎日そこを通りかかっては、物珍しい芸人がやってきてはいないか、と心を弾ませた。誰もいなくても彼はそこに留まり、子どもらしい空想を

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