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#6 AVデビューへの切符

大学の授業が終わり、「今日も誰とも話さなかったな…」なんてぼんやりと思いながら、どこに寄り道するでも無くそそくさと電車に乗り込む。
家に着いて携帯を見ると、一件の不在着信が入っていた。
名前を見るとそれは事務所の社長さんからで、急いでかけ直すと、先日行ったメーカー周りの結果が出たとの事だった。

恐る恐る話を聞くと、私には全部で四つのメーカーさんから専属契約のお声がかかっていたらしい。
ということは、、、
そうです、私、ひとまずAVデビューの切符は手に入れる事が出来たのです、、、!!!!!(歓喜)
喜びで舞い上がる気持ちを抑えつつ、ではその内のどのメーカーと契約を結ぶのかという重要な話が続く。

お声掛け頂いた中から事前に事務所側が候補として最適なメーカーさんを精査し、私の方には三つのメーカーさんからの具体的な契約条件(専属契約なのか、何本撮るのか、金額はいくらなのか等)が告げられた。

・メーカーA 〇本/〇円~  
・メーカーB △本/△円~ …

AV好きなら誰もが知っているような有名メーカーの名前だったり、普通の感覚では考えられないような額の数字、その全てが専属契約だという事などが社長の口から淡々と発せられていく。
私はその度に何とか驚きを隠し、冷静さを装って机の上にあった適当な裏紙に各社の条件をメモしていく。
ギャランティーや契約本数に関しては素人の私には良いも悪いも分からなかった為、改めて詳しい説明をしてもったのだが、話を聞く限りで明らかになったのは、各メーカーさんから提示していただいた条件は自分の想像していたよりも遥かに良いものであるという事だった。
何の肩書きも無いただの大学生の私に、可能性と期待を込めて場を提供してくださっているメーカーさんがいる事も、その中から契約を結ぶ相手を私が選ぶ立場にある事も、今、現実に起こっている全てが夢の様で、少し前の自分には想像も出来ない事ばかりだった。
最終的に、メーカー側の意図やその後の設計等、あらゆる要素を加味した上で、事務所側からしても私にとっても一番良いと思うメーカーさんで契約をしてもらう事で納得した。

結果として、私は好調過ぎるスタートを切れそうだ。
正直なところ、約一ヶ月前に思い切って事務所にメールをした日から今日まで、トントン拍子に物事が進んでいる事に驚いている。
大きな喜びと同時に、私なんかでいいのかという不安や、こんなに良い事ばかり起きて何だかもうすぐ死ぬんじゃないだろうかという縁起の悪い事をついつい考えてしまう。
しかし、昨今のAV業界では、女優さん自体の人気や社会的地位向上の影響で女の子の飽和状態が続いており、どこのメーカーからも声がかからない、ましてや事務所の面接で早々に弾かれるなんて事も容易にある(というよりその場合の方が多いらしい)という話を聞いていたから、内心はとてもホッとしていた。
とは言っても、これは今後の私のAV女優人生を全て保証してくれるような、そんな都合の良い契約では無い事も理解している。
それはどんなに世間を湧かせている女優さんでも同じ事で、人気が出て売上が上がれば仕事は増え、人気が落ち売上が減れば仕事が無くなる。
基本はこの歴然たる法則が全てを支配しているからこそ、2年で中堅、5年で大ベテラン、10年続けられたら生ける伝説とも言われる業界なのだ。
そんな緊張感が張り詰めている世界に身を置こうとしている時点で心の余裕なんてとっくに無い。
でも、メーカー周りの時に強く思った、「自分の"運"は自分で乗り越えてみせる」という決意が、このような形で現れた事は少しだけ自分の自信に繋がった気がした。
そして、自分なんかにこれほどのまでの価値を見出してくれたメーカーさんからの、大きすぎる期待とプレッシャーがきっと私のバネになる。
だから私はもっと強く、美しく、エロくなれる。
そう信じるこの蕾を、一番私らしく花咲かせてくれる場所に出逢えたのだから。

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