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#5 いざ行かん、メーカー周り!

というわけで、無事AV女優の事務所に所属する事が出来たのだが、所属しただけでAVに出演出来るという訳では無い。
むしろここからが本番である。

私はAV女優になろうと決意したその日から、この業界についてのあれやこれやを自分なりに色々調べてきた。
そうして分かった事は、この世界で長く活躍していく為には努力を怠らないのは勿論、皮肉にも"運"というものが十分に関係しているらしいという事だった。
無論、私は単なるバイト感覚で事務所に応募した訳でも無ければ、生半可な気持ちでこの業界に足を踏み入れようとしている訳でも無い。
確固たる信念と覚悟を持って、己の信じる生き方の為にこの道を切り開いてきたつもりだ。
…だがしかし、"運"の良さだけは自分でどうこう出来る問題では無いじゃあねえかッ!!!(CV:中村悠一)
考えようによっては、今日までの時点で私は既に"運"に運ばれてここまで来たと言う事も出来るかもしれない。
しかし、まず最初に訪れる本当の意味での私の"運"の正念場は、「メーカー周り」にかかっていると感じていた。

「メーカー周り」とは、女優さんをどのAVメーカーからデビューさせるかを決める面接周りの事で、極端な話をすれば、どのメーカーからも声がかからなければ一生女優として作品に出演する事が出来ない。(一概には言えないけども)
また、AV女優にはそれぞれ「単体女優」、「企画単体女優」、「企画女優」という三つの形態があり、自分がその内のどこに属するかを決めるのも基本的にはメーカー側のお仕事。
つまり、各社約30分~1時間ほどの面接で、自分はどのメーカーからデビューするのか、女優としての形態はどうなるのか、はたまたデビュー自体出来るのか、その全てが決まってしまうという訳なのだ。
この条件は後から変わる事はいくらでもあるが、肝心なデビューをどう飾るかは、自分にとっても重要な問題であった。

メーカー周り初日は面接に持っていく宣材写真を撮る為、朝早く事務所へ出向いた。
誰かにメイクをしてもらうのも、ちゃんとした写真を撮ってもらうのも、小さい頃に行ったスタジオア〇ス以来。
人生で初めてカラコンを付けてもらい、思っていたより悪くないななんて満足気でいよいよ写真撮影へ!
上裸にTバック姿で、白い背景の前に立つ。
写真写りが良くないから不安だと言うと、カメラマンさんは笑顔で「大丈夫!俺に任せて!!!」と言ってくれた。
その言葉が凄く嬉しくて、心強くて、初めて裸を撮ってくれるのがこの人で良かったと思った。

写真を撮り終わり、マネージャーさんといざ出発!
面接の流れは全メーカー共通で、事務所での面接時に書いたような質問シートへの書き込みと、NG項目やパブリシティ(自身の情報をどこまで公開するか)の確認、最後に裸の写真を撮るという感じだった。
パブリシティに関しては、躊躇無く「全開」へ丸を付けた。
それは、中途半端な気概でAVをやろうとしているのでは無いという、私の『覚悟』を意味していた。
勿論、パブリシティが狭い人は仕事に対する思いが弱いとかそんな事を言っているのでは無い。
それに、自ら後戻りできない状況を作っているだけじゃないのかと言われれば、そうかもしれないと思ってしまう節もある。
それでも、「パブリシティ全開」というのは、私がAV女優になりたいと思った時から決めていた事の一つだった。

途中マネージャーさんの会議が一件あったので、その間私はカフェで待つことにしたのだが、別れ際に言われた「お茶代の領収書貰っておいてください!」の言葉でプチパニックに。
恥ずかしながら、まだ社会人経験も無いに等しい私は領収書の貰い方が分からなかったのだ。
何とか領収書を受け取り、マネージャーさんとも合流。
日も落ち始めた頃、最後のメーカーさんへと向かった。

煌びやかで立派な建物に圧倒されつつ、受付嬢の方にガラス扉の個室へと案内された。
ふと周りを見渡すと、男性(恐らくマネージャーさん)と若い女性の二人組が頻繁に行き来していた。
その全てがメーカー周りとは限らないが、それは私が初めて自分以外のAV女優になるかもしれない人物の存在を認識した瞬間だった。
あたかもガラス越しに自分を見ているかのような不思議な感覚になった。
そして改めて、
「代わりならいくらでもいる」
この隠しきれない事実を、生々しいまでに心で理解した。
もし私がAV女優になれたら、その間ずっと"商品"として比較され、評価され、消費されるんだ。
私の選んだ未来に影を落とす、少し残酷な側面が垣間見えたような気がした。
でも、私はそんな事も十分承知でここにいるのだ。
ここにいる事が許されているのだ。
だったら後は全力でやるのみ。
そしたらきっと"運"は付いてくるはず。

...いや、そうじゃない。
"運"があるとかないとか以前に、全ては自分で選んできた事だ。
自分がそう望み、切り開いてきた道だ。
私をここまで"連れてきた"のは他でもない、この自分自身なのだから。
ひ弱になっていた心に喝を入れ、その日最後の担当者の方を待った。

メーカー周りが終わり家に着くと、緊張から解放されたのかどっと疲れが押し寄せて、お風呂にも入らず泥のように眠ってしまった。
翌日、カバンの中を整理していると、財布の中から渡し忘れたコーヒーの領収書が出てきた。
二日間で計五社のメーカーさんにお邪魔したが、その結果は二週間後くらいに分かるらしい。
今回のメーカー周りは上手くいったのだろうか、、それよか領収書の貰い方すら分からなかった私だけど、自分の選択に付き纏う責任の重さについては分かっているつもりだ。
だから他力本願はもうしない。
自分の未来を創るのは、自分自身の揺るがない意志の強さのはずだ。
私は、私の"運"を乗り越えてみせる。

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