米VC(Y Combinator)の投資企業215社から見る、生成AIプロダクト・AI SaaSの現在地
はじめまして。
株式会社riplaで取締役COOをしている張田谷(はりたや)と申します。
弊社は「事業成長に伴走するプロダクト共創パートナー」として、IT事業会社出身のBizDev、PdM、PM、デザイナー、エンジニアによる専門チームが、プロダクトの立ち上げから成長まで包括的に支援する「Product Lab」や、SaaS事業を低コスト&短期間で立ち上げる「SaaS Box」というサービスを展開しております。
今回はタイトルにもある通り、海外の生成AIプロダクト・AI SaaSの動向について紹介したいと思います。
GPT-4の発表から早くも1年が経過し、生成AIの活用に関して様々なユースケースが検討されてきている一方、ハルシネーション(=生成AIが誤った回答を生成すること)の課題もあり、実用性の高いユースケースを見出すことに苦労する場面も多いように感じています。
そこで今回は、米国の主要VCであるY Combinatorが出資している、生成AIプロダクト企業215社(2024年7月30日時点)を対象に調査し、
・活用事例
・トレンドの変化
についてまとめました。
生成AIプロダクトの開発を検討されている方は、ぜひ参考にしていただければと思います。
活用事例
本セクションでは、生成AIを活用したプロダクトの事例を紹介していきます。
活用事例の傾向が分かりやすいよう、分野を区切ってそれぞれ説明していきます。
セールス×生成AI
セールス分野においては、特にリード獲得の領域で、生成AIの活用が見受けられました。
生成AIの活用方法としては、実作業を生成AIで代替するケースもあれば、生成AIを分析や育成に活用するケースもあるなど、非常に多岐に渡っていました。
そのうち、いくつかのサービスを紹介したいと思います。
vector、Penguin AI…Webサイト訪問者の自動特定
Coldreach、Persana Ai…膨大なデータからのアタックリスト自動作成
Sail、Fiber AI…膨大なデータからのアタックリスト自動作成+カスタマイズされたアタック文面の自動作成と送付
letterdrop…通話データからアタック文面の自動作成+SNSの活動状況から適切なタイミングで自動送付
Flair…AIによってオペレーションを強化したリード獲得代行業者
Hyperbound…対話型AIを相手にした架電ロールプレイング
FABIUS…あらゆる販売データ(通話/メール/HP/資料など)をもとにした営業データ分析
また、企業の設立年が2020~2023年まで幅広く分布しているという特徴も見られました。
マーケティング×生成AI
マーケティングの領域では、SEO対策に特化した生成AIプロダクトが多く見受けられました。
SEO対策における生成AIの活用は、国内でも早くから注目されていた印象がありますが、海外でも古いものでは2017年設立の企業が存在していました。
以下が具体的なサービス事例です。
RankScience、Hypotenuse AI、Writesonic…SEOの分析とコンテンツの自動ライティング
Jasper…ブログ、コピー、SEOの自動ライティング
sevn…生成AIを活用した広告クリエイティブ作成
typedream…生成AIを活用したHP構築
カスタマーサポート×生成AI
カスタマーサポートの領域では、電話、メール、チャットでの顧客対応を自動化するサービスが見受けられました。
企業の設立年が2022~2024年の間で分布しており、セールスやマーケティング領域と比べると、直近でホットな領域であることが分かります。
具体的なサービス例は以下です。
Parabolic…過去データをもとにした応答チャットの自動生成
vocode…自社オープンソースを活用した電話応答の自動化
Flyflow…電話応答・エスカレの自動化+内容の分析
Open…電話、メール、チャットでの自動応答
市場調査×生成AI
こちらも、企業の設立年が2022~2023年の間で分布しており、比較的直近でホットな領域であることが分かります。
特に多かったのは、顧客の声を自動で収集・分析するサービスです。
国内だと、flyleが非常にサービスとして近いように感じました。
以下がサービスの具体的になります。
Dateleap…自然言語による市場データの検索+抽出
Kraftful、Monterey AI、syncly、INARI…音声・テキストなど様々な顧客の声を自動集計+分類
PromptLoop…生成AIを活用したスプレッドシートへのスクレイピング
バックオフィス×生成AI
バックオフィスの領域では、主に人事と法務領域での活用が見受けられました。
企業の設立時期は2016~2023年の間で満遍なく分布しており、生成AIの黎明期から継続的に期待されている分野であることが分かります。
以下が具体的なサービス例です。
Juicebox…自然言語による人材DB検索+メールでの採用リーチ
aiFlow…AIによる採用候補者のスコアリング
inFeedo…AIを活用したエンゲージメントサーベイ+人事向けの問い合わせ自動対応
DIOPTRA…契約書の自動レビュー
LAYERUP…法務関連の調査/資料作成/回答、契約書の作成/レビューのサポート
Leena AI…人事/IT/財務への問い合わせ自動対応
Arva…KYB(法人の本人確認)の自動化
事務作業×生成AI
こちらはかなり活用事例が多岐に渡り、これといった傾向は見られませんでした。
設立年は2022~2023年の間に収まっており、まだまだ歴の浅く、マーケットチャンスが広く残っていそうな領域です。
以下が具体事例です。
Sonnet…会議を音声録画し、議事録に変換
alai…自然言語からスライドを生成
wolfia、Dialect…社内データをもとに、アンケート回答を生成
floeorks…自然言語で各種業務ツールを操作
dart…AIを搭載したプロジェクト管理ツール
エンジニアリング×生成AI
設立年が2023~2024年に集中しており、直近でホットになった領域と言えそうな領域です。
活用事例としては、コーディング、非構造化データの構造化、プロダクト管理が多く見受けられました。
具体例は以下の通りです。
magicloop…自然言語のみでプログラムを構築
lightski…AIを搭載した技術文書生成
Defog.ai…自然言語でデータを加工し、表/グラフとして抽出
RoeAI…非構造化データ(テキスト/HP/画像/動画/音声など)をSQLで実行可能な形にする
Zeit AI…ExcelファイルをSQLで実行可能な形にする
Tara AI…AIを活用した開発生産性の可視化
Remy…AIを活用したセキュリティ設計レビュー
WidMoose…自然言語によるインシデントの特定
業界特化×生成AI
業界特化のAIは、金融・医療業界において特に事例が多く、次点で法律事務所・サービス業向けの活用事例などが見受けられました。
金融・医療業界などにおいては、専門知識を持った生成AIが登場し、一方のサービス業においては、人手不足を解消するような生成AIが登場しており、活用の目的が大きく異なっていました。
設立年は2020~2024年にかけて幅広いですが、2023・2024年に集中しており、直近の注目度の高さがうかがえます。
以下が具体事例です。
Shiboleth、Kobalt Labs…消費者向け融資コンプライアンスの自動化
feather…AIを活用したアナリスト向け金融調査ツール
SALIENT…自動車ローン業者の自動顧客対応
pibit.ai…過去事例をもとにした、商業保険業界向けリスク分析
ARCIMUS…保険料監査の自動化
KYBER…保険業界向けの自動請求通知
vetrec…獣医師向けの臨床メモ生成
shasta health…AIにより業務プロセスが自動化された、患者と理学療法士のマッチングプラットフォーム
Maven Bio…バイオ医薬品研究の文献調査ツール
Abel…法律事務所の自動文書レビュー
DraftWise…法律事務所の契約作成・交渉自動化
innkeeper…ホテルの自動顧客対応・価格設定
OfOne…飲食店のドライブスルー注文自動化
Sameday…住宅建設職人の自動電話応答
Flint…学校向けの生徒学習指導・分析自動化
AI.FASHION…アパレル業界向けのモデル着用の商品画像生成
Henry…不動産売買業者向けのプレゼン資料・財務モデリング生成
その他×生成AI
ここでは、分類が難しかったものをいくつかまとめてみました。
ToC領域での活用事例も数多く見受けられました。
クリエイティブな活動をサポートするものもあれば、リサーチや学習を効率化するものまで多岐にわたっています。
Play…高品質なテキスト読み上げ音声生成
Ezdubs…高品質なリアルタイム翻訳
HeartByte…小説執筆のアシスト
Lifelike…キャラクターの画像・音声生成
Playground…AIを活用した画像の編集・生成
QuickVid…動画の自動編集
Simplify…AIを活用した求人探しの効率化
Lumina…科学者向けの文献調査ツール
Zenfecth…検索履歴によりパーソナライズされた検索エンジン
Toko…AIとの対話型英語学習ツール
ackLio…調達部門向けの調査ツール
Pulse AI…LLMによるERPの強化
トレンドの変化
古くは2016年ごろから生成AIプロダクトへの投資が始まり、2022年以降に大きく投資数が増加していく様子が見受けられました。
「GPT-3.5」の無料公開が2022年11月、「GPT-4」の有料公開が2023年3月だったことを考えると、ChatGPTの台頭ともに市場が盛り上がっていったことが読み取れます。
また、PwCが2024年に発表した『生成AIの技術動向から見る将来像:前編 生成AIの次の一歩』でも触れられている通り、生成AIの技術動向として注目されている
・マルチモーダル化
・軽量化
についても、登場するサービス内容に一定反映されている様子がうかがえました。
※マルチモーダル…テキスト、画像、音声、プログラムなど複数の種類の情報を統合して処理すること
※軽量化…推論に必要な計算リソースを抑制する技術のこと
これまでの生成AIは、Text-to-TextやText-to-Imageなど、自然言語をインプットとして、単一種類の情報を出力するシングルモーダルが一般的でしたが、
FABIUS…あらゆる販売データ(通話/メール/HP/資料など)をもとにした営業データ分析
Open…電話、メール、チャットでの自動応答
Kraftful、Monterey AI、syncly、INARI…音声・テキストなど様々な顧客の声を自動集計+分類
などのように、複数の情報源から複数の情報を出力するサービスが出始めてきていることが分かります。
今後も様々な分野での活用が期待される他、ゆくゆくは、単一のUIから複数のシステムを動かすような仕組みも実現されると考えられています。
軽量化については、モデルの学習コスト・生成コストが下がったことにより、金融や医療といった特定領域にモデルを特化させる事例や、応答のリアルタイム性を要求されるサービスが台頭する様子が見受けられました。
OfOne…飲食店のドライブスルー注文自動化
Sameday…住宅建設職人の自動電話応答
Ezdubs…高品質なリアルタイム翻訳
などはまさに、応答のリアルタイム性に特化した好事例と言えるでしょう。
サービスUXの傾向
サービスのUXとしては、あくまでコンテンツの生成に留まるものが多く、それをどう判断し、実行に移すかは、ある程度利用者に委ねるよう設計されているものがほとんどでした。
こちらについては、やはりハルシネーションの課題を考慮したUXと言えそうで、もし生成AIを活用したプロダクト開発を検討する際には、ハルシネーションがあったとしても
・業務の要求水準を満たせるのか
・業務にかかる時間を短縮できるのか
の2点を考慮することが重要だと言えそうです。
最後に
いかがでしたでしょうか。
本記事を読んだことで、生成AIを活用したプロダクトづくりのヒントになれば幸いです。
改めてではありますが、株式会社riplaでは、IIT事業会社出身のBizDev、PdM、PM、デザイナー、エンジニアによる専門チームが、プロダクトの立ち上げから成長まで包括的に支援しております。IT事業会社出身のプロフェッショナルなメンバーを集めているため、プロダクト成長を第一に伴走いたします。
また、SaaS事業を低コスト&短期間で立ち上げる「SaaS Box」というサービスを展開しております。
もちろん、生成AIを活用したプロダクトの支援事例もございますので、もし、生成AIを活用したプロダクトを検討・開発したいといったご要望がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。