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寄稿:cinra magazine vol.5 ROCKについて(2005年)

"Royal Scam" STEELY DAN
'Rock Around The Clock'の時代からドラム・ベース・ギター・ボーカルという主にこれだけの編成でもって世界を席巻し半世紀も経とうとは誰が予測出来たか。言うまでもなくその間に音楽は色々な変貌を遂げた。そう、機材や楽器の進化も含めて遂げたのである。遂げたのであるから、今更ROCKをやるなんて、という思いがある。2005年にもなってROCKをやり続けるなんて、ちっともクリエイティヴではない、という思いもある。しかしながらこういう意見には誰にも耳を傾けてくれないとも思う。勿論、聴くのは自由だ、フリーだ、ウッドストックだ、それ程にROCKは偉大なのであり、人々の心に揺るぎないものになっている。一体、そんなROCKとは何なのか、そんなことはここで答えられるはずもない。今までも散々議論されてきたし、今さらである。そんな中、オヤジギャグコピーで有名な朝日新聞社の「AERA」から「AERA in ROCK」という臨時増刊が出た。買ってもないし、読んでもないが、「再びの、ロック。」と表紙にある。巻頭に取り上げられているのがLED ZEPPELINとQUEEN。他に取り上げられているアーティストも僕のROCKのイメージとかけ離れたものではない。あくまで例なので別に本の批判をするのが目的ではないが、ここには何も目新しいことはない。ROCK世代がオヤジになってこれを読むのであるからそれでいいわけだが、現在形のROCKではない事は確かだ。なのでいっそのことROCKは死んだもの、終わったものと割り切った方がいい。もはやそれを前提してROCKは楽しまれているといっても言い過ぎではないだろう。逆に言えば現在形のROCKというのがあやふやなのであり、またまたしつこく過去何度も問い直されたROCKとはなんなのか、を改めて考えなければならないという事なのか、端的にこのコラムに与えられた題材がROCKでなければ別に考えてなくてもよいが。特にここは日本なのでその辺の問題はますますややこしくなる。日本のROCKとか言った途端に。そんな厄介な事は音楽評論家にお任せしたい。それでは「自分にとってのROCK」「俺的ROCK」或いは「僕的にはROCK」というROCK精神論の話になると思いきや、「そんなものはわからない」としか言えない。音楽は楽しければいい、ROCKかどうかなんて既に問題じゃない、ミュージシャンはこういう発言をもって、この問題は片付けたい。ウッドストックに駆け付けた何万人の人々もこう答えただろう。そんな野外コンサートにSLY & THE FAMILYSTONEが出演した。ここでROCKファンであるなら、同じく出演したTHE WHOのパフォーマンスに痺れるのであろうが、僕はSLYのパフォーマンスに痺れた。SLYはROCKではない。SLYは黒人音楽の中でも白人がメンバーにいるという事もあり、サウンドも随分ROCKよりであるが、ROCKではない。実はこれこそROCKだ!というと問題がややこしくなるのでやめておく。ということで僕はあまりROCKが好きではない。10代の頃はROCKバンドもやったし、ROCKの良さはそれなりにはわかっているつもりだが、僕の世代からしても過去の音楽という印象は拭えない。昔に「ロックの名盤」という類いの本を読んで買ってみたりしたのがSTEELY DANだったりする。そんなSTEELY DANはROCKバンドのはずだった。しかし僕が好きなのはROCKバンドではなくなってからの『幻想の摩天楼』からだ。フェイゲン&ベッカーはバンドのメンバーを首にして、優秀なスタジオミュージシャンを使い、自分達の音楽を追求し素晴らしいレコードを作った。そう、ROCKはバンドじゃなくても出来るのだ。むしろバンドじゃない方が素晴らしい音楽が出来た。ROCKにはバンド幻想というものがつきまとう。そういった意味でSTEELY DANは反バンド幻想なのであり、ROCKから逸脱してしまった。人々はそれをフュージョンとかAORと言ったが、本当にそういうのが好きな人にはSTEELY DANはROCK過ぎる。SLYもSOULファンからしてみればROCK過ぎる。両者ともROCK過ぎるが、ROCKファンが真っ先に挙げるアーティストではない。少なくともLED ZEPPELINやQUEENと並べられるものではない。それらは単にマイナーだからという事ではない。STEELY DANやSLYはちょっと頭が良過ぎた。また自分の音楽を追求し過ぎてしまった。もっと大らかに単純な音楽をやればROCKだったのかもしれない。愛すべきバカになれば良かったのかもしれない。ROCKとはダサくて厄介なものである。


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