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新たなライバル物語か? 全米オープン2021#2

テニス史上初という快挙で優勝したエマ・ラドゥカヌと、準優勝のレイラ・フェルナンデス。二人の共通点と相違点を私なりの視点で整理してみました。もし元気が残っていれば「小ネタ」も書くかもしれません。

「これからも二人で決勝を」

 優勝スピーチでエマはこう言います。「レイラとはこの先何度でも大きな大会で対戦したい、できれば決勝でね」それを後ろで聞いていたレイラが「うんうん、そうよね!」という顔をします。それがこの写真です👇

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 この二人が決勝で当たるようになっていた今大会の組み合わせは奇跡です。今回フルに観客を入れられたのも奇跡のうちに入るかもしれません。しかしこの二人が共に決勝に上がってきたことは決して奇跡とは思えません。もちろん勝負は多分に運が作用しますが、二人が運だけで勝ち上がったのではないことは決勝を目撃した満員の観客が証明するでしょう。

 スポーツに限らずなんでもそうかも知れませんが、遙かな高みに至るには好敵手が必要です。マッケンローとボルグ、サンプラスとアガシ、ナブラチロワとエバート、グラフとサンチェス、例えが古くて恐縮です(笑)。互いのプレイスタイルが違えばなおのこと観ている者にとって面白いのです。

 近年では男子のビッグ3という三角ライバル関係がここ15年ほどのテニス界を盛り上げてきました。しかし今現在の女子は?というと、そういった関係の選手たちが思い浮かびません。それが女子テニスの人気低迷につながっているのかも知れません。そのことは以前にも書きました👇

 エマとレイラ、18歳と19歳。今回この二人の活躍を見て、もしかしたら我々は歴史に残るライバル関係のスタートを目撃したのか?いやそうであってほしい!と思わずにはいられませんでした。しかし答えは誰にもわかりません。

二人の共通点は?

 この二人を見ていて真っ先に私が思ったことは「この人どこから来たんだろう?」ということです。「どこから」というのは国籍のことではもちろんありません。二人共日焼けもあって浅黒い肌をしていますがアフリカ系を連想させる感じではありません。レイラ(左)の方はどこか親しみを覚えるアジアの血を感じます。しかしエマ(右)の方はなんだかよくわかりません。

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 答え:レイラのお母さんはフィリピン系、お父さんはエクアドルから。エマのお母さんは中国人、お父さんはルーマニア人。つまり複数の民族的ルーツを持つという共通点が二人にはあります。今後こういう選手は増々増えることでしょう。日本でもそうですよね。

 二人共線の細い体格です。レイラは168cm、エマは175cm。180cmオーバーも珍しくない女子テニス界ではレイラは小柄な部類です。テニスについて言うと、二人共「テニス頭」が良いということです。パワーはさほどありませんがショットやコースの選択、予測が素晴らしく、それがチャンスつくり、またピンチを救っていました。そして二人共ラドワンスカを思い出させる、しゃがみながら方向を変えるショットがフォア・バック両方ででき有利な展開をつくっていました。そして重要な局面ほど集中力が高まり大胆かつ厳しいショットを打ってくるという点も二人の強みです。

 相違点は?

 身体能力ではエマが勝っていました。コートカバー能力がずば抜けており、女子なら大抵決まるはずのボールを逆にカウンターで決められたという経験を相手選手はしたんじゃないでしょうか?ワイドにコート外に走らされても帰ってくる切り返しのフットワークはジョコレベルです。趣味でゴーカートに乗馬、バスケにゴルフにスキー、タップダンスと幅広くこなすようです。スポーツだけでなく数学もかなりの成績だそうです。

 一方レイラはパズルやルービックキューブが好きという話です。学校の先生から「いい加減テニスはやめて学校の勉強に集中しなさい。ものになりはしないんだから」と言われていたそうなので、勉強の成績はあまりよくないのでしょうか。ちなみにその先生の忠告は正しいと思います。実際テニスを志す全国レベルの子供の99.9%はプロにはなれません。他のスポーツでもそうでしょう。でもその先生、今どう思ってるのか知りたいですね。

ポイントは肘?

 技術的な違いも実はあります。フォアハンドです。私はフォアハンドには2種類あると思っています。私は「インパクトの際、肘が伸びているか・曲がっているか」で分けています。「肘が伸びているグループ」の代表はフェデラーとナダルです。最近ではチチパスがそうです。実は女子では珍しいのですが、そこにレイラが入ります。

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「車椅子テニス」の記事で「地面の反力」という話をしましたが、ごく簡単に言うと、肘が伸びている方が地面の反力を効率よくボールまで伝えることができます。この打ち方を会得すると大きなテイクバックは必要なくなります。実際フェデラーのテイクバックは極限まで小さくなっています。通常小柄な女子選手のテイクバックは力を補おうと大きくなりがちですが(ハレプなど)、レイラのテイクバックは女子の中では最も小さい部類でしょう。肘が伸びている人はグリップは自動的に薄めです。ナダルなどはものすごいスピン量のフォアを打つのでグリップはさぞ厚いだろうと思いきや、こういう理由から実はそこまで厚くないのです。

 では「肘が曲がっているグループ」はというと、ジョコヴィッチはじめほとんどの選手がここに入ります。エマもしかりです。

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錦織くんや大坂さんもこちらのグループです。このグループは必然的にグリップは厚くなる傾向です。肘は曲がっていると関節として不安定なので、故障の確率が高まります。野球の投手がそのいい例です。ジョコヴィッチや錦織くんも肘の故障を経験しています。

 ここまでエマちゃんととレイラちゃんの共通点と相違点を見てきました。ネットプレイヤーがあまり育たないという現代テニスでは、昔ほどプレイスタイルの違いは際立たないかもしれません。強いて言えば、エマは自分から角度を使った仕掛けで早い展開をするタイプ、レイラはやや我慢しながら深く裏をかくストロークで相手を追い詰めていくタイプかもしれません。

  今大会の女子を振り返っていると「あの実力者はどこで負けたの?」と度々思いました。実はうようよいるんです、力のある女子選手、GS(4大大会)のタイトルを持つ強者が。しかし当たり前ですが全員負けています。そして残ったのがこの二人でした。

 優勝のエマ・ラドゥカヌ、18歳のイギリス人は世界ランク150位、当然予戦スタートです。ですが予戦3試合+本戦7試合を全てストレート勝ち。予戦からGSの優勝を成し遂げたのは男女含めて史上初です!


 これから全選手が血眼になって二人を研究してくるでしょう。そしてちなみに現在(9/13)エマちゃんのインスタグラムのフォロワーは156万人、レイラちゃんは26万人です。レイラちゃんと同じ世界ランク70位台の日本人女子選手のフォロワーは1万人に届きません。

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2人は億の賞金と共に「評判」という資産も手にしましたが、それは同時に何十万何百万という見知らぬ人々に監視されるということでもあります。それらが彼女達をどう変えるかも含め女子テニス、楽しみになってきました!!

ここまで読んでいただきありがとうございました。(小ネタ断念)

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