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"人生の全体性を取り戻す"医師であり芸術監督である稲葉さんに伺う「人間が真に健康であること」

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科
クリエイティブリーダーシップコース
「クリエイティブリーダーシップ特論第11回」
グラフィックデザイナー、大阪芸術大学教授:三木健さん
20.09.2021

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース必修である「クリエイティブリーダーシップ特論」では、毎回クリエイティブ×ビジネスを活用し実際に活躍をされているゲスト講師を囲みながら議論を行います。この記事では、講義内容と私自身の気づき、今後の可能性についてまとめています。

稲葉俊郎
1979年熊本生まれ。医師、医学博士
1997年熊本県立熊本高校卒業。
2004年東京大学医学部医学科卒業。
2014年東京大学医学系研究科内科学大学院博士課程卒業(医学博士)。2014年-2020年3月 東京大学医学部付属病院循環器内科助教
2020年4月 軽井沢病院 総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、東北芸術工科大学客員教授(山形ビエンナーレ2020 芸術監督)
2021年1月 軽井沢病院 副院長
​東大病院時代には心臓を内科的に治療するカテーテル治療や先天性心疾患を専門とし、往診による在宅医療も週に一度行いながら、夏には山岳医療にも従事。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。国宝『医心方』(平安時代に編集された日本最古の医学書)の勉強会も主宰。未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業・・など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。2020年4月から軽井沢へと拠点を移し、軽井沢病院(総合診療科医長)に勤務しながら、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼任。東北芸術工科大学客員教授(山形ビエンナーレ2020 芸術監督 就任)を併任。
全体生を取り戻す新しい社会の一環としての医療のあり方を模索している。

クリエイティブリーダーシップ特論も10回目。
これまで多くの方の貴重な講義を受けてきましたが、今回はいつもと毛色が違う。「人生とは?命とは?喜び悲しむとは?」など、リーダーシップという枠組みを超えた「生きること」について深く考えるお説教の回のよう。

そこで、ここから読み進めていただく皆様へ
今回はお寺の住職さんのお話を聞きに行った相手に「どうだった?」と質問した後の感想を聞いているような気持ちで以下読み進めていただけると幸いです。

“人生の全体性を取り戻す”
「医療と芸術」の共通点

講義の冒頭のお言葉。
「医療と芸術」の共通点を表す今回の講義での重要なキーワードです。

稲葉さんは医師として、「からだ」だけでなく、「こころ」や「いのち」をめぐる思考を続けています。こちらのインタビュー記事では、人間は元来イマジネーションという、目には見えないものとの繋がりを掴むことが出来る能力を持っていると仰っています。医療にしても、芸術にしてもこの世界のみえない部分を感じ掴みながら「いのち」と向き合う姿勢こそ、"人生の全体性を取り戻す営み"であり、人間が本来健康的で生きる上で最も重要なことなのではないでしょうか。

※ちなみに、山形ビエンナーレの芸術監督を務めることになったきっかけは香川県丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を通じてらしく、先月ちょうど「いのくまさんとニューヨーク散歩」という企画展を訪れていた私にとってはなんと!ナイスタイミング!とそれだけで意気揚々でした。

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本当にやりたかったこと
「病気学ではなく健康学だったんだ。」

稲葉さんは執筆活動の中で言語化を行うことで、自分が本当にやりたかったことが「病気学ではなく健康学」だったことに20年という月日をかけ最近ようやく気がついたとおっしゃいます。
稲葉さんが大学時代からずっと抱えていたモヤモヤ、違和感。それをそのままにするのではなく、常に向き合いながら自分なりに解釈を深めていったからこそだと思います。
(違和感ってやっぱり大事。大学卒業時に学部長に言われた「自分の興味と違和感をいつまでも大切に生きて下さい。」という言葉が思い出されます。)

病気が治る、というのはとても客観的な判断で、確かに医師に完治しました。と言われたら安心するのは自然。ただそれでもどこか気が晴れない憂鬱な気分が続くことは稀ではないはず。これは健康ではない。

稲葉さんはそんな状態にも手を差し伸べたいと仰い、今も人々が真に健康な状態を考え続けています。

現代人が”人生の全体性を取り戻す”ためには
自然との繋がりを日常的に感じる

さて、ここからは少し私個人が講義を通じて考えたことについてになります。
突然ですが、最近では「ウェルビーイング」という言葉を耳にする方も多いのではないでしょうか。

well-being
noun [ U ]
the state of feeling healthy and happy:
(参考:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/well-being)

直訳すると健康と幸福感を感じている状態。ですが、自分にとってのwell-beingな状態をアタマだけでなくココロカラダを通じて理解している現代人はどれほどなのだろう。と。

現代人にとって、稲葉さんの仰る"人生の全体性を取り戻す"という感覚を育むにはどうしたら良いのだろうか。講義を通じて終始この疑問を抱いていました。

たぶんヒントは自然との調和。いかに自分が自然界の一部であることを感じ取れるか、なのではないかと思います。

私は大学3年までずっと都会育ちで自然との繋がりを感じながら生活することを経験したことがありませんでした。それまでの幸せとは「ワクワクする、達成感がある、仲間と共に何かを成し遂げた嬉しさがある」といった感情が中心にあったように思います。

もちろん、それも1つの幸せだし心の健康状態としては悪くない。

ただ、アメリカコロラド州はボルダーという街での暮らしを通じて、自分にとっての健康や幸福の定義が全くもって変わりました。
(ボルダーはLifestyle of Health and Sustainabilityという概念の発祥地として、健康や循環型の暮らしが街全体の当たり前として営まれています。)

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当時住んでいた部屋からは街のシンボルであるFlat ironという山が見え、窓を開け日々異なる山や空の表情を楽しみに朝起きる。生きていることを自覚する、匂いや音・澄んだ空気を全身で吸収し気がついたら自然と涙さえ流れてくる。何もしていないのに体も心も満たされ、生があるだけで幸せと思える不思議な感覚です。

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私はこのボルダーでの生活を通じて「人間はあくまでも自然界の一部」であることを身を以て体験し、自然との繋がりを感じながら日々を生きありのままの状態でいられることこそが自分にとっての幸せな状態だと思うようになりました。

それからというもの、食事をするときも栄養を摂取するというモノとして食べ物を見たり、好きな物を食べたいという欲だけの基準として食選択を行うのではなく、共有資源つまり自然界の一部を消費しているという感覚が芽生え、食べ物の前後の繋がりを意識して食選択するようになりました。

生産背景や自分が選んだ食が社会や自然に与える影響は目に見えるものではないけれど、それによって悲しむ人や苦しむ人がいる現実がリアルに感じ取れる。間接的ではありますが、先進国に住む人々の欲に限った消費選択の結果、悲しむ必要のない他国の人々が影響を受け、結果満足に水を飲めず昨日の隣人と争っているリアルな友人がいます。だからこそ余計に地球市民としての責任を感じる。

『今』の自分の行いによって、『未来のいつか』自分にとっての幸福元である心地の良い自然がなくなってしまうのも嫌だなと思う、というよりはこころが拒否する感じ。かもしれません・

余談としては壮大かつ長くなりましたが、現代人にとって"人生の全体性を取り戻す"ためにはやはり自然との繋がりを日常的に感じながら生きることが大切なのではないかと。

環境を変え、
自然との調和を日常に取り入れて変わったこと。


実はここ2ヶ月間、私は都内を離れ祖父母の家がある兵庫県神戸市に拠点を置き、フルリモートで仕事と院の授業を受けていました。
元々長期間の滞在予定ではなかったのですが、家の窓からは明石海峡大橋が見え、少し歩けば淡路島が見える。そんな山や海といった自然感じる空間が心地良すぎて、、、帰れなかった笑

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普段会社員をしていると目の前にあるスケジュールに追われ、業務で一杯一杯、ミクロな視点でしか物事を捉えることが出来なくなってしまうことも多々あります。そんな状況に危機感を感じ全く健康じゃないな〜と思いつつずるずるとそのまま引きずってしまっていたここ半年。

この2ヶ月間の生活を経て、変化がありました。
朝は窓を開けて気持ちの良い朝日を浴びる。夕方16:00から17:00の間には夕陽を浴びに散歩へ出かける。そんな風に自然をたっぷりと感じることで、何よりココロが安定する。一日の幸せ度が違う。なんでもない小さな幸せに気づく余裕ができる。

これまでは中々機会もなく長期的に東京を離れることもなかったのですが、これからは定期的に環境を変えて仕事したい。と強く思ってます。

そして、もしその行き先を自由に選べるなら(兵庫は別として)長野県がいい。長野の旅館で泊まり込みで中居してたくらいに好き。実際に、ボルダーも稲葉さんが現在拠点を構える軽井沢ととても雰囲気が似ている。

最後は何の話なんだという感じですが、
とにかくこれからも自然との繋がりを感じながら、「自分は今人生のどの部分を生きているんだろう」と意識することを忘れずに日々暮らしたいと思います。そしてそんな意識を閉ざさないようにするため、10分間の瞑想や1日3つの感謝を日記に書く、といったちょっとしたルーティーンも効果的だと思います。怒涛の日々に句読点をつけるような気持ちで自分と向き合う時間を作り、インナーチャイルドと呼ばれる自らのココロに耳を傾けることも大切なのではないかと。

2021/09/26


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