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映画サバカンが最高すぎる

映画・サバカンが最高すぎる

金沢知樹監督の映画・『サバカン』があまりに良すぎて、なぜこんなに自分の胸に響くのか考えてみました。

1 サバカンはTKO木本さんのおすすめ

サバカンを知ったきっかけはTKOの木本さん。今年の四月にTKOさんの半生を僕が小説にした、『転落』を発売したのですが、執筆のために、木本さんと木下さんにずっと話を聞いていました。

基本お二人のこれまでの人生を丹念に聴く時間だったのですが、世間話もしてました。そこでふと木本さんが、「浜口さん、金ちゃんのサバカン観ましたか」と尋ねられたんです。

観てないですと答えると、「ぜひ観てください」と木本さんが強めの口調でおっしゃられたんです。

それで観てみたんですが、これが自分の好みとどんぴしゃでした。

2022年公開の映画なんですが、正直あまりによすぎて、「木本さん、もっと前に教えて」と感じたぐらいです。映画館で観たかった……。

2 上映時間が96分

まず映画を観る前に、いつも上映時間を確認するんですが、サバカンの上映時間は96分。

もうこの段階で、「これはいいな」と感じました。

というのも僕が好きな映画ってだいたい百分前後のことが多いんです。

小説で例えます。一冊の長編小説をそのまま脚本にすると、まあ二時間は確実に超えます。それを二時間ぐらいの脚本に落とし込むには、まず必要のないシーンから削らないとだめです。

逆に短編小説を映画にすると、あきらかにショートです。そこで脚本でシーンを足したり、監督の演出で一時間半以上の尺にする。

短編って基本ワンアイデア・ワンテーマで書くので、縦筋が長編以上にしっかりしている。だからその一時間半ぐらいの尺だと、監督の色が濃厚に出る気がします。

ということで、96分の映画って時点で期待値があがりました。

3 和製スタンドバイミー

あらすじはこうです。

舞台は1986年の長崎。小学生の久田はある日、家が貧乏なせいでクラスの嫌われ者だった竹本から思いがけない誘いを受ける。翌日二人はイルカを見るため、久田の自転車に乗ってブーメラン島を目指す。

少年達の夏の冒険。まさに和製『スタンドバイミー』です。

スタンドンバイミーでは子供達が死体探しの旅に出るんですが、サバカンはイルカ探しです。

ちなみにスタンドバイミーの原作は短編で、上映時間は一時間三十分ほど。スタンドバイミー好きならば、サバカンも絶対に好きです。

4 自伝的作品

スタンドバイミーとサバカンの共通点は、どちらも自伝の要素が含まれているということです。

スタンドバイミーの原作は、スティーブンキングの小説です。これはキングの実体験に基づいた作品です。

一方サバカンも、金沢さんの幼少期の経験を元にした映画。どちらも自分のことを描いています。

作家は自分の経験したことしか描けない。

ちょっと前にこの言葉がSNSで取り上げられて、揶揄されて大喜利状態になってました。

経験したものしか書けないんだったら、ファンタジーも異世界転生ものも書けません。まあ僕も自分が体験したことがないものをガンガン書いています。あくまでこの言葉はメタファーです。

ただスタンドバイミーとサバカンが、なぜこんなに胸を打つのかと問われると、やっぱりどっちも経験したことを描いているからじゃないかと。

サバカンだと金沢さんの胸の底にある記憶を作品に投影しているからこそ、観客の心に刺さる作品になる。

実体験の物語の方が、より観る人の胸を震わす。言語化・数値化できないけど、絶対にあるんですよ。

サバカンの場合は、大人になった主人公の役が草彅剛さんなんですが、草彅さんの演技がほんと素晴らしい。

草彅さんのナレーションで物語は展開するんですが、草彅さんの声そのものにノスタルジーを感じさせるんですよ。
 
なんだろ? 1/fゆらぎのある声質というか。より作品の中に連れて行ってくれる声です。この草彅さんの演技とナレーションも、サバカンの魅力です。

5 コメディーの要素がある

やっぱり僕は、コメディーの要素がある作品が好きなんですよ。昔からそれは変わらなくて、自作でもどうしてもコメディーの要素が欲しい。

感動系の作品を作るときは、まずキャラクターを好きにさせないとだめです。好きにさせないと、受け手が感情移入ができないからです。

そのキャラクターを好きになる条件の一つが、僕の場合は、『ユーモアのあるキャラ』になります。

サバカンを観ていると、金沢さんもそうだと感じました。やっぱりお笑い畑で育った作家さんは、絶対にその感覚があります。ほんと同じ畑で育ってきた人だって感じます。

主人公の父親役の竹原ピストルさんと、母親役の尾野真知子さんのやりとりが面白くて、二人でM-1でたら結構いいところいくんじゃないですかね。

6 少年役の番家君と原田君

主人公の二人の番家さんと原田さんの演技がとにかくよかったです。

演じているというよりは、本当に長崎にこんな少年が二人いて、そのやりとりを偶然カメラで撮って映画にした、みたいな感覚を受けるぐらいです。とにかく自然なんです。

金沢さんのインタビューを読んでいたら、「一緒に長崎に行きたいか」で二人を選んで、「役でやらずに自分でやってくれ」と頼んだとおっしゃってたんですよね。

この一緒に長崎に行きたいかで選んだっていうのが凄くて。その金沢さんの気持ちが、あの二人の自然さに繋がっているんじゃないでしょうか。

7 ラストがとにかく泣ける

ほんとこの映画、ラスト号泣です。

やっぱりこれって子供の物語なんです。子供って無邪気さだけじゃなくて、無力なんです。だから大人よりも、時代や運命に振り回されてしまう。その悲哀がサバカンにはあります。

これは、その無力さに翻弄される二人の物語でもあります。だからこそ最後、泣けるんですよね。

他にも語りたいことが山ほどあるんですが、ネタバレになるので書きません。

まだ観ていない方は、サバカンぜひご覧ください。


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