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美しき明るい悪夢『ミッドサマー』ネタバレ感想

※この記事は映画視聴済み前提です。

村に着いた瞬間、天国かと思った。ずっとずっと天国だった。草原に花が揺れ、薄青い空の下で白衣の人々が楽しげに話している牧歌的な風景。
対比される冒頭の暗く、気まずい雰囲気からしてみると、この村はただただ美しい、としか言えない。

そんな画面の美しさと、物語の狂気が、観客の私自身にヤクをキメてくるトンデモ映画だった。

トんでしまった

超感情移入して観るタイプなので、キャラクターたちが何度も何度もドラッグ入りドリンクを飲んだのと同じくらい、私もキメた!って感じに。丸一日引きずりました。新年一発目に観るもんじゃねぇ!!!!!!

村の風習が明らかにおかしくて、主人公のダニー御一行ドン引き〜ってリアクションだったらここまでならなかったと思う。ちゃんとドン引きしてたのロンドン組くらいだったよ。

ダニーが最終的に「家族」になってしまうくらいに、ホルガの価値観がリアルに感じられてしまったのがこの映画の一番こわいところで。

常識揺さぶる真逆の社会

アメリカが自由の旗をふったように、日本もここ数十年は、自由と個人を尊重しようという社会だ。個人が意思を持って、自分の人生を選択する。その分リスクはあるが、成功も大きい。そんな社会。

ダニーはあまりに「個人的」で「自己責任」な世の中に、自分の抱えるどうしようもない苦しみを消化できないでいた。拠り所であるはずの家族はもういない。頼りにしたい彼氏クリスチャンにも面倒くさがられてそう。つらい。つらい。ああ。

それならば、旅行してリフレッシュしようと、スウェーデン旅行を決める。

そんなグラグラの心で訪れたスウェーデンの村は、「集団」と「共感」の社会だった。悲しみも、痛みも、性欲さえも共感してくれる。共感の形をしているだけで、それが本質的に共感かというと分からないが…。
というかそこさえも揺さぶられてしまった。「何も知らないくせに!」とはよく言うが、そもそも完全に経験を追体験することはできないし、結局どこまでも分かったふりしかできないのではないだろうか。
何も聞かずにただ同じように叫んでくれる「ホルガ流共感」だって立派な共感の一種なのでは…。ただそんな方法“知らない”から怪しく見える。これこそカルト。

幸せな人生の歩み方とはいかに

私自身アメリカにいる間、そこの新興宗教の人たちと仲良くしていたから、この物語は本当に考えさせられた。あー懐かしいこの感覚。

幸せな人生とはなんでしょうね。ホルガの四季で、死が決まっているというのは一つポイント。老後の病気や呆け、現代だと孤独に怯えながら年を重ねていくより、みんな等しく終わりを決めてしまった方がある意味の安心感になるのでは、いやまぁ、なかなか受け入れがたいシーンでしたが!

社会学的に、近年、ナショナリズムや伝統志向のリバイバルが来ているっていうのは、この映画と交差するところがあるのではないだろうか。(トランプ政権のアメリカ・ファーストや、イギリスのEU脱退など。)同調圧力に個人が押さえ込まれ、不満が爆発してた70年代と比べると、多様性の時代と謳われ、個性重視のここ数年、逆に孤独感・不安感が高まっている。

社会学の土井隆義教授が言っていた例を引用すると、

学外演習の班決めの時、今までは出席番号順に分けられていくから、自由がなく、不満があった。今は好きな人同士で組むことが許されているから、自由だけど、ひとり余ってしまう不安がある。

映画の話に戻すと、ダニーは頼れる人を失い、不安の渦、そんな時に、自由はないが、不安もないホルガに落ちてしまうというのは分からなくないのだ。

どっちの社会が良いというのはないと思う。社会のあり方はグラデーションで、人の気持ちも価値観も社会背景や時代によってグラデーションで。

だからこそ、ミッドサマーを怖いと思う気持ちは、紛れもなく私たちが真逆の価値観に生きているという証明である。

画面の色がずっと最高

私は趣味で色彩検定取るレベルで色が大好きなので、色の話もさせてほしい。

アリ・アスター監督の映画は『ミッドサマー』が初めてだったから他の作品は分からないけれど、村に入る前のシーンからずっっと色が美味しかった。アメリカの部屋のシーンは薄暗い中で甘く照らすあたたかい間接照明がとってもすてきで、北欧っぽいおしゃれさを醸している。

ちなみにアメリカに少し住んでみて気付いたけれど、アメリカの部屋が薄暗いのは映画の演出とかってより本当に暗い。目の色素が薄くて、目の黒いアジア人より少ない光で明るく感じられるからだそうな。

使用している家具にデンマークの照明ブランドUMAGEの照明「Silvia」があったりと、滲み出るハイセンスさが気になる気になる。

北欧の内装って本当に可愛くて、最近だとNETFLIXでみた『The Wave』っていうノルウェーのディザスター映画の内装が本当に質素ですてきだったので是非みてほしい〜。

話がずれた。

村に入ってからも本当に美しい。白夜だからずっと明るくて、いい天気。オレンジの光と青い影。大好きな色ばっか!ホラーっぽい暗闇演出はほんの少しで、もうずっと美しい景色。これが明るい悪夢ってやつか…。

あと関係ないけど、お花をふんだんに使ったり、腕組んではねるように踊ったりしてるのめっちゃ『塔の上のラプンツェル』だったね。コロナ王国のステイホームクイーンとして話題の。

まとめ

頭がおかしくなりそうな物語が、美しい画面で丁寧に描写された『ミッドサマー』、素晴らしいと思います!もう観たくありませんですが3ヶ月後くらいにブルーレイポチってそうで怖いです。オススメ!

ミッドサマーは公式サイトが「完全解析ページ」を作っているのでとっても楽しい。ルーン文字の秘密やタペストリー、いろんな背景を解説してくれてて必見。

ファンの人の感想ブログもたくさんあってよき。こちらはお気に入り。


ではでは最後になりますが、あけましておめでとう!
(2020/01/01)

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