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【連続note小説】日向食堂 小日向真司12歳

文枝は誠司が死んだ後、パートを掛け持ちして生計を保っていた。
歳之も小学校に通うようになり、何かと出費がかさんだ。
文枝は食費を浮かすために、いつの間にか朝と昼の食事を抜くようになっていた。

ある朝のことだった。
二人の息子を小学校に送り出し、自分もパートに出掛ける準備をしていると、食卓の上に何かが紙で包まれた状態で置いてあった。
文枝はそれを恐る恐る開いてみた。
その中身は給食で支給されるコッペパンだった。

真司は文枝が痩せていくことに気が付いていた。
自分の食費を浮かしていることもわかっていた。
しかし子供の真司にできることは、給食を食べずに持って帰ることくらいだった。

そのパンはかぴかぴに乾燥していた。
しかし世界中のどんな上等のパンより大切なパンだった。
文枝は涙と一緒にコッペパンを飲み込んだ。
お茶がなければとても飲み込めない。
それがおかしくて一人で笑ってしまった。

文枝はしょっぱくて固いパンを食べて、いつものように出掛けて行った。


真司が生まれてから人生を全うするまでを連載小説として描いていきます。

<続く…>

<前回のお話はこちら>

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