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教採の社会人枠は不利か有利か

今回は、私も最初に迷った「社会人枠で受けるか否か」という話です。

結論から言うと、社会人枠での受験は基本的にはオススメです。教採の社会人枠の戦場偵察と戦略考察をしながら、その根拠を示したいと思います。

記事の概要は目次をご覧ください。

※当然ですが、この記事の内容が全ての方、全ての自治体に当てはまるわけではありません。自身に合った教採対策を考えるための情報の1つとしてご活用ください。




✅社会人枠あれこれ考察

●採用数について①「少ない民間からの採用」

 こちらの資料によると、令和元年〜令和4年度の民間企業等での勤務経験者の採用人数は(各校種によりますが)、採用数全体(35,058名)の2.5%〜5.5%程度(1,317名)であることがわかります。100名採用したら、2〜6名しか民間経験者は採用されていないということです。

 また資料の注意書きによると、どうやら「民間企業勤務経験者」=「社会人枠受験者」というわけではなさそうです。(つまり、一般枠で受験している民間勤務経験者の人もいる可能性が高い。)よって、上記の2.5%〜5.5%のうち、社会人枠からの採用数は、さらに少ないことが予想されます。

()内は令和4年度の採用数

思った以上に少ないですよね…。

さらに注目したいのは、採用者全体の約50~60%は教職経験者(令和4年度は18,251名)であるということです。そして、教職経験者のうち約80%が臨時的任用教員等です。やはり、教職経験は評価に繋がりやすい傾向にあるようです。

自治体によっては詳細がわからない場合もありますが、受験する自治体の選考別採用者内訳は、必ずチェックしておきたいところです。


●採用数について②「社会人枠の採用数は?」

 こちらのURLの、平成30年以前の「試験免除・特別の選考等」の資料によると民間企業勤務経験のある特別選考の採用人数は「一般採用見込み数に含める」と表記されている自治体が7~8割程度あります。つまり、ほとんどの自治体が明確に社会人枠の募集人数を定めていない自治体だということです。

 直近の資料では、同じ項目を見つけることができなかったのですが、平成30年の時点でこの表記がされている場合は、概ね現在も同様の募集方法と考えて良いかと思います。

社会人枠を一般採用見込み数に含めるという自治体に関しては、一般枠も含めた全ての選考枠の受験者から、優秀な人を上から順に採用をしていると考えて良さそうです。さらに、明確に決まっていない社会人枠の採用数は、あまり気にしたところで仕方がないように思います。

中には「若干名」「全体の◯割」と決めている自治体もありますが、採用数が0人の年度も存在するのであれば、「良い人がいたら採用する」という意味で、これも同様に考えて良いかと思います。

ちなみに、私は高校地歴公民で受験しましたが、社会人枠は年によって採用数0名もありました。自治体全体の各校種・科目では毎年0~6人程度の採用のようでした。



●倍率について①「高倍率の社会人枠」

次に倍率です。ここでは社会人枠だけの倍率を調べられる神奈川県・川崎市・埼玉県で確認してみます。基本的に全体の倍率に比べ、社会人枠は倍率は高いことがわかります。

▼神奈川県
・受験者数:256名 (245名)
・合格者数:67名 (60名)
・倍率:約3.8倍 (約4倍)
 ┗全体の倍率:約2.9倍 (約3倍)

▼川崎市
・受験者数:53名 (55名)
・合格者数:7名 (12名)
・倍率:約7.5倍 (約4.5倍)
 ┗全体の倍率:約2.3倍 (約2.3倍)

▼埼玉県
・受験者数:187名 (12名)
・合格者数:57名 (4名)
・倍率:約3.2倍 (約3倍)
 ┗全体の倍率:約2.9倍 (約2.8倍)

各自治体 教育委員会 HPより
※令和5年度の実施状況
※()内は令和4年度の実施状況

当然、校種・科目によって差があります。例えば、令和5年度の神奈川県では、高校英語2.3倍、高校地歴公民11.3倍。(令和4年度の高校地歴公民は受験者23名中、採用者は0名)

ちなみに埼玉県では、令和4年度は高校英語のみ「社会人特別選考」を実施し、令和5年度より「セカンドキャリア特別選考」が新設されたため、純粋な比較はできませんでした。


●倍率について②「倍率は気にしても仕方がない」

社会人枠の倍率が高くなる理由は、合格しづらい人が集まる選考枠だからだと私は予想しています。

私の前職(キャリアコンサルタント)の経験から、民間から教員への転職理由をいくつか想像してみます。

①民間企業での勤務に疲れた
②民間企業で昇給・キャリア形成する自信がない
③給与・休日・勤務時間・その他の待遇面の改善
④公務員という安定を手に入れたい
⑤たまたま教員免許があるので受けてみる(受かればラッキー)
⑥ただ何となくやってみたい・向いている気がする
⑦社会人経験を経た上で、心からやりたい仕事だと思った

これらの転職理由については、教員への転職に限ったものではなく、世に溢れる転職理由は大体上記のどれかに当てはまるという話です。

経験上、転職者の7~8割が①~⑥の転職理由に当てはまります。つまり、自虐も込めて、敢えてキツい言い方をすると、社会人枠は民間で上手くいかず『逃げの選択』として教員を志望している人が多く、優秀な人が少ない選考枠である、と私は思っています。さらに、これらの人たちにとって志が高い受験者を演じたり、面接官から高評価をもらったりすることは、難易度が高そうです。

要するに、合格する可能性の低い人が集まりやすい社会人枠は、必然的に倍率が高くなるということです。このように考えると、倍率も気にしたところで仕方がないのです。

(語弊があると嫌なので一応弁明しておくと、筆者は教員が「逃げの選択」でも良いと思いますし、絶対に志高い方もいらっしゃいます。笑)



●受験資格と試験内容

(※上記資料の各年度の「特別の選考」をご覧ください。)

[社会人枠を設けている自治体]
 令和3年度の資料によると、ざっと全国の4/5くらいの自治体で社会人枠の選考が設けられています。


[受験資格]
 民間企業で直近通算5年(若しくは継続して5年)勤務を条件としている自治体がチラホラ。しかし、農学・理学・工学などの専門職経験のある社会人だけ、受け入れている自治体も目立ちます

 私のような専門職でない受験者の受け入れは、増えてはいるものの、決して多いとはいえないのが実情のようです。


[試験内容]
 1次の筆記試験が一部免除になり、2次試験の内容は一般枠と変わらないケースがほとんどです。令和3年度では、社会人枠を設定している自治体の3/5程度がこれに該当しています。

 中でも一般教養・教職教養が免除になるのが王道のようです。

そして、特筆すべきは民間 (専門職でない普通の会社員) での経験による「加点」はほぼないということです。重要なのでもう一度、専門職でない場合は、試験免除はありますが加点はありません。

さらに「採用数について②」で述べたような、社会人枠を一般採用見込み数に含める自治体、且つ本項で述べた2次試験の内容は変わらない自治体の場合、2次試験以降は、いよいよ選考枠など関係なく全員でガチンコ勝負となるわけです。


✅ 社会人枠は有利?不利?

●社会人枠が有利な場合

これまでの内容から下記の2点に該当するのであれば社会人枠は有利であると言えます。

①社会人枠の採用数を一般採用見込み数に含めている(社会人枠の採用数を決めていない)

②試験内容は一部免除になるだけで、2次以後は一般枠と同じ

(前項で述べた通り、結局のところ最後は全員でガチンコ勝負になるからです。)

そもそも、社会人枠で試験が一部免除になっているのは「最低限の一般常識はあるよね~」という期待と、「社会人だから大変でしょう~」という配慮です。そして、試験の一部免除があるからこそ、時間がない社会人でも2次面接まで到達することができます。

これは、自治体にとってもメリットになります。なぜなら、やむを得ない事情で本来は1次通過できなかった優秀な人材に出会えるチャンスが増えるからです。(私は完全にこの恩恵にあずかった身で、一般枠から受験したら絶対に受かっていません。)


●面接の評価方法・基準について

ここまで長々と述べてきましたが、結局のところ私の勝手な推測も含めています。というわけで「社会人枠は不利なのでは?」という観点を踏まえ、社会人枠の選考基準についてまとめ、本記事を締めたいと思います。

●不利論① 選考が厳しくなる?

社会人枠からの受験は「民間での実績やスキルなど評価される観点が増え、通常より求められるレベルが高くなるため、特に面接が厳しくなるのでは?」という意見です。

この点については、半分正解で半分誤りというのが私の考えです。

まず、評価の方法に関してです。
都心近郊の、ある自治体でつい最近まで面接官をされていた先生に、話を聞くことができました。

・面接方法はマニュアル化され、質問事項もある程度限られている。

・評価方法も観点別評価で、各観点を3〜5段階で評価し全て数値化できるようになっている。(例えば、「情熱」という観点でA-Eで評価するなど。)

・できる限り面接官の私見や偏見を排除するような努力が図られている。

・模擬授業や論作文も同様。

この通り、社会人枠独自の評価の観点は存在せず、一般枠と同様である可能性が高そうです。昔はコネがまかり通る時代でしたが、今の公務員採用試験は、特に公正さが求められているのです。

とはいえ、評価するのは人間です。
そのため「評価の観点」は変わりませんが、「評価の基準」は年齢や経歴などにより変動すると私は考えています。

例えば「高い倫理観」という観点があった場合、「22歳の新卒に求める高い倫理観」と「35歳の社会人経験者に求める高い倫理観」は違いますよね?(民間経験がある皆さんなら伝わると信じて、ここでは深く追及しません…。)

これは一般枠で受験しても同様で、面接では年齢・経歴を踏まえた回答が求められるはずです。やはり、どちらで受けても変わらないということです。

ちなみに別で記事にするつもりですが、私が実際に面接を受けた際も、民間での経験や実績に関しては、ほとんど質問されませんでした。(むしろ聞いて欲しかった…。)

●不利論② 即戦力が求められている?

「それなりに年齢も高く、社会人としての経験もあるんだから、自分と同年代の教員とある程度同じレベルが求められるのでは?」という意見です。

この点は、もはや説明不要かと思います。

面接の内容も評価方法もマニュアル化されていますし、20〜30分程度の面接で即戦力度は測ることはできません。というよりも、経験豊富な先生たちと同じレベルの能力が備わっているはずもありません。強いて言うのであれば、模擬授業の点数配分が大きいのであれば、一定の即戦力度を求めていると考えて良いと思います。

但し、前職の知見も踏まえると、面接では「今持っている能力」ではなく、「未来の貢献度」をアピールすることが大切です。そのため、年齢が上がると、必然的に未来の貢献度をアピールすることが難しくなります。そうなると、やはり現状の能力のアピールが重要になるのかもしれません。



✅ 最後に

●筆者の小言

一般枠か社会人枠か悩んでいたときに、YouTubeや Twitterなどで教採対策をされている方に、問い合わせて相談してみました。

すると「社会人枠は倍率が高いし、よっぽどの人じゃないと受からない。面接官も厳しくなるから、勉強する時間を作って一般枠で受けた方がいい。」と言われました。

根拠も示さず、なんだか胡散臭かったので、自分で調べて、無視して、社会人枠で受験しました。

合格しました。

ただただ、それが言いたかった…。
嫌味な小言です。ごめんなさい。笑

ただ、ここまで読んでくださった方には、この記事も含めた全ての情報の信憑性は、ぜひ自分で見極めて自分でご決断をして頂きたいと思います。

●本記事の注意点

■本記事の「社会人枠」とは「民間企業等での勤務経験者に向けた特別選考」を指します。
■あくまで筆者の実体験を踏まえた事実と、「予想」も含まれています。
■社会人枠は自治体によって試験内容や採用基準に差が生じやすいです。内容がすべての社会人枠選考に当てはまるわけではありません。鵜呑みにするのではなく、参考程度にしてください。
■筆者の試験科目には模擬授業以外の実技はありませんでした。実技試験も含まれる場合は、さらに「+α」を考え対策する必要があると思います。

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